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虎鉄の日記:その頃彼は


 一都市を巻き込んだ騒乱が一応の収束を見せ、
 そのレポートが発表されたの日の夜の話――


 ある都市で大規模な戦闘が行われ――そして一応の終わりを見た。
 その成果の程はともかく、一つの幕は落ちたのである。
 だが、それはそれ。
 所詮はどこか遠い地の遠い話に過ぎない。
 傷ついた者達が帰り着き、それぞれの想いに身を委ねている頃。
 ここ、銀誓館から程近い洋館――学生寮「木漏れ日の館」の自室で彼は………


 自室の床に寝転がったまま、鳳凰堂・虎鉄は分厚いレポートに目を通している。
 下手な雑誌よりも嵩のある紙の束に向けられた表情は、普段の彼を知る者であれば己が目を疑うであろう程に冷めていた。それこそ、とっくの昔にやり飽きて興味もなくなったゲームを延々と繰り返している時のような、その行為を作業と割り切った者のそれである。
 白い用紙に記された文面を追う傍ら、開いている方の手で胸元を掻いてみたりもする。
 どころか、たまに欠伸すらしている。
 眠たげに細められた目に浮かぶのは、退屈の二文字。
 色の無い視線を流しながら、一向に集中できない胡乱な頭で考える。

――何人くらい死んだのだろう。

――今度は、何人くらい守れなかったんだろう。

 資料に端まで目を通せば判るのかも知れない。
 ひょっとしたら、もうそんな記述を読んでいたかも知れない。
 知れないのだけれど。

――けどなぁ。

 いまいち、興味がもてない。
 それは例えば朝のニュース。
 寝ぼけまなこを擦りながらパンを齧っている時に、TVの画面から地球の裏側でどこかの国の誰々さんがこれこれの理由でどーなりました、と聞かされた時のような感覚。
 ふぅん、あっ、そう。それで、今日の天気はどーなんよ?
 それくらいにしか思えない。
 今日の自分の運勢が最悪だと聞かされた方が、まだ深刻な話題だと思える。

――人の、命なのに。

 人の、命。
 ひとの、命。
 ヒトの、命。
 そして、他人(ひと)の命である。
 大事なものであるはずだ。尊ぶべきものであるはずだ。守るべきものであるはずだ。
 けど。
 そんなに大事なものだっけ? 何で尊んでるんだっけ? そこまでして、守るものだっけ?
 水面に生まれた波紋のような疑問。
 それを打ち消す言葉が、思いつかない。

――だってさぁ。

 だって、そんなの今更過ぎるだろ。
 電気の消えた天井に伸ばした手を、ぎり、と握る。
 今まで、この手でどれだけ殺してきただろう。
 誰かを救うために、と依頼された戦いで。
 誰かの安全のために、と赴いたゴーストタウンで。
 まだ見ぬ誰かのために、と剣を振るった戦争で。
 殺して殺して殺して殺した。戮して戮して戮して戮して戮した。殺して戮して殺して戮して殺して殺して戮して殺して戮して戮して戮して戮して殺して殺して戮して殺して殺しまくってまた戮した。
 そんな自分が、思う。
 人の命は大切なものだ! 尊ぶべきものだ! 守らなくてはいけないんだ!

――なんの冗談だ? 

 そんな資格が、どこにある。
 そう、思えばあの時。私が始まった、一番最初のあの時から――

「どこの戯言だ、畜生め」
 黒い憎悪を吐き棄てる。
 醜く汚れた廃棄物は、同色の闇に溶けていき……

「ぅん………」

 夜を割る、金色の声に払拭された。
 途端、慌てたように少年は上体を起こした。
 その顔は滑稽なまでの驚きと焦燥に歪んでいる。最前までのそれがなにかの冗談であったのではないかと思えるほどに多彩な色を宿した視線の向けられた先は、壁に寄せられた彼の寝床だ。
 その上で、シーツにできた小さな盛り上がりが、もぞもぞと動いていた。
 少年が爆弾の解体作業に立ち会うハメになった一般人よろしく硬直している間にも、シーツにくるまった誰かはまたスヤスヤと穏やかな寝息を立て始める。それを確認した上で、彼はようやく大きく息を――器用な事にまったく音を立てずに――吐いた。
 見て取れるほどの安堵を表情に浮かべて少年は肩を下ろす。
 そこで何かに気が付いたように眉を上げ、そして、嗤った。
 ひどく酷く陰惨な、おぞましい表情で、笑う。
 ああ、そうか。つまりはそれが、答えか。
 どこか遠くで喘ぐ幾百幾千の他人の苦悶より、
 すぐ隣で眠る人の一時の安らぎの方が、遥かにも意味あるものと思える。
 下ろした手の平を、ぎり、と握る。
 ああ、そうだ。そうだろうとも。
 そのためになら、この手は幾万幾億の命だって殺せるだろう。
 自嘲はいよいよ深くなり、最早『笑い』という形さえ葬失し、彼の顔に刻まれる。

――なんて、気味が悪い。

 浅ましいにも程がある。下劣なる事地獄の如し。
 なにが悪いって、他人を理由にしているあたりが最悪だ。
 その一念糞にも劣る。これでは畜生の方がまだマシじゃあないか。
 吐きそうなほどの自己嫌悪。
 内臓を焼き落とさんばかりのそれを噛み殺し。
 それでも、

「ふひひ」

……少年は、一人ぼっちで笑っていた。

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