スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

虎鉄の日記: FANG OF THE WAR



――明日、私は戦争に征く。



 早朝、空が白み始めるよりも尚早く。
 重厚な木製の扉を、少年は押し開けた。
 戦うために。
 戦争のために。
 その少年は、旅立とうとしていた。

「どこへ行くんだい?」
 その背中に声をかける者がいた。
 少年が振り向いた先には、一人の少女がいた。
 この館の住人達が起きてくるにはまだ早い時間だと言うのに、少女はそこに立っていた。
 まるで当たり前のように。
 それこそ当然であるかのように。
 半ば睨みつけるような少女の視線を受けて、けれども少年は驚かなかった。
 まるで、少女がそこにいる事を知っていたかのように。
 それこそ、少女がここに来るだろう事を信じていたかのように。
「どこへ行くんだい?」
 少女はもう一度問うた。
 少年は答えない。扉に手をかけたまま、少女を見つめているだけだ。
「どこへ行くんだい?」
 三度目の問いかけ。
 それさえも黙殺する少年に、少女は形のいい眉を顰(ひそ)めた。
 少年は、少女にとってよく知った相手だった。
 それなりに長い付き合いもあるし、それなりに深く知り合っていると思っている。
 けれど。
 今目の前に立っている少年は、少女の知らない彼だった。
「答えては、くれないのかい?」
「……何故、こんな時間に、こんな場所にいるんです?」
 少女の問いかけに問いかけが返る。
 それは、その日初めて少女に向けられて発された言葉だったけれど。
 その言葉は、これっぽっちも少女の胸に響く事はなかった。
 少女には判っていた。
 少年の問いには、まったく意味というものが込められていない事を。
 何の味もしない、乾いた言葉。
 ただ、話しかけられたから反応しただけ、というような。
 あまりにも、空っぽなといかけ。
 少女はいつの間にか拳を握り締めていた自分に気付いた。
 血の気を失った肌が、微かに震えている。
 きっと、寒さのせいだろう。
 この季節の朝の空気は、酷く厳しい。一つの容赦もなく皮膚を刻む。
 ああ、だからだろうか。
 少女は思う。
 こんなにも、胸の奥が冷たいのは。
「それを聞きたいのはこちらの方だよ」
 凍えるような空気を越えて、少女の視線が少年を貫く。
「こんな時間に、そんな格好で……君は、どこへ行くつもりなんだい?」
 少女が指差した少年は、異様な服装をしていた。
 常のようなコート姿ではない。
 まるで戦争に赴くかのような。
 それも、少年や少女にとってのそれ――能力者の戦争に、ではなく。
 さながら、本当の戦争へと赴くかのような武装を、少年は身に纏っていた。
「見て判りませんか?」
 少年は答える。
 けれど、それが答えと呼べるものかどうか。
 少なくとも少女は、それを否と判じた。
「判らないよ……そんなのは答えじゃないだろう」
 少年は、ここで初めて少女から視線を切った。
 逡巡するかのように自分の足元へ視線を落とし、眉を寄せる。
 否、少年は確かに逡巡していたのだった。
 そして、いささか長い沈黙の後、少年は静かに静かに口を開いた。
「……………私は戦争へ征きます」
「何故?」
「征かねばならないから」
「だから、それは何故なんだっ、て聞いているんだ」
 強く、少女は少年を見据えた。
 或いはそれは、溺れかけた者が藁に縋るのにも似た強さだったのかも知れないけれど。
 力ある視線で、少女は少年を射抜いた。
 少年が顔を上げた。
 少女の視線を真っ向から受け止めて、言った。
「『彼ら』は、『彼女ら』は、私を待ってなどいないでしょう。私の訪れなど夢想にも期待していないでしょう。私の事など――きっと、知ったことですらないのでしょう」
 けど、だからこそ私は征かなくてはならない。
 訥々と、朴訥と。
 まるで自分自身に言い聞かせているかのように、少年は答えた。
 その少年の姿に、少女は悟る。
 少年の答えは曖昧で、何を言っているのかなど判らなかったけれど。
 それでも、気付いてしまった。
 少年がその戦いに、自分の命を賭けようとしている事に。
 それと同時に、思う。
 ああ、この少年はきっと、止められない、と。
 けれど、それでも。
 それでも、少女には諦められなかった。
「どうしても、征くのかい?」
「どうしても、征きます」
「私が、征くな、と言ってもかい?」
「貴女が、征くな、と言ってもです」

「――いかないで、と言ってもかい?」

「…………」
 少年の表情が歪(ゆが)む。
 痛みに耐えるように、少女を見る。
 少女の表情が歪(ひず)む。
 自分を見る、痛みに耐えるような表情に、少年の答を悟ってしまったから。
「それでも、私は征かねばならない」
「そう……」
 少女が目を閉じる。
 耐えられなくなったかのように。
 少年が目を逸らす。
 耐え切ってしまった自分を恥じるように。
 僅かな沈黙が、少年と少女の間を埋める。
 五歩と、あとはほんの少しの距離。
 言葉など無くとも、埋められると思っていた距離。
 それだけの距離が、今は無限よりも遠い。
「判った、もう止めない。だから、せめてどこへ行くのかくらいは教えてくれないか」
「駄目です」
「………どうして?」
「言えば、貴女はついてくる。ついてこなくとも、その場所に辿り着く。それは、駄目です」
「………どうして?」
「私の『そんな姿』なんて、貴女には見せたくない」
「………どうして?」
「…………」
 三度目の問いかけに、少年は背を向けた。
 ドアノブに手をかける。
 握り締めたそれはまるで、終りを告げるかのように冷たかった。
 だから、少年は踏み出しかけていた足を止めた。
 その感触があまりにも冷たすぎて、驚いてしまったから。
 或いは、ひょっとしたら。
「待って」
 永遠よりも遠い場所でこぼれた、誰かの声を聞いたから。
 少年は振り向かない。
 けれど、進みもしない。
 ただ立ち止まったまま、待っている。
 その背中に。
 その背中の、もっと内側にあるところに。
 少女は、問いかけた。

「私の助けは、いらないのか?」

 少年は。
 少年は。
 少年は、躊躇ったのだろうか。
 その答えを返す事を、ほんの一瞬でも、一瞬よりも短い刹那の間にでも、迷ったのだろうか。
 それは、少年以外には、わからない。
 ただ、少年は。
 即答のような言葉で、言った。

「貴女の助けは――必要無い」

 扉を開けて、少年は出て征った。
 あとには、少女が一人、残された。 












――今回のオチ。

 結局、少年の言う戦争が東京にて行われる某巨大同人誌即売会(別名コ○ケ)であり、少年がそれに参加するために館を抜け出したのだという真相を知ってマジギレした少女が、何事も無かったかのように帰ってきた少年をそれはそれはそれはもう口では言えないくらいに言葉に出来ないくらいに洒落にもならないくらいにフルボッコにした上で寮の屋上から三日三晩逆さに吊るしたりする事になるのだが、それはもう少し先の話。
 はっきり言って自業自得である。

終劇~ギャフン~


スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

ってな訳で

背後がコミケに行ってくるので、全PCの活動を停止いたします。

何と言うか

とりあえず、吹いた人の数(1/20)
プロフィール

神無月

Author:神無月
神無月(かんなづき)と申します。

主に株式会社トミーウォーカーのPBW『TW2:シルバーレイン』用のブログとしてなんか色々とまったりペースで徒然事が書かれています。
いぇー。

最近の記事
月別アーカイブ
カテゴリー
リンク
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。