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虎鉄の日記:鳳凰堂・虎鉄の人間試験


ちょっ!?
やぁ~っとあの戦争から帰ってきたってのに、
いきなり試験ですかぁ~?
はぁ、やれやれ………正直勘弁して欲しいんですけどねぇ。
ま、仕方ない。
これも学生の義務ってやつでしょうし、

それじゃあいっちょう気合をいれて――試験勉強を始めよう。


「成る程、趣旨はよく判った……で、なんで俺はここにいるんだ?」
 その行為に果たしてどういう意味があるのか、凶悪なまでに大きな鋏を人差し指に引っ掛けてくるくると回している茶髪にロンゲの少年に、その背後に立つ黒髪の少年が声をかけた。
 言うまでも無い事であるが、一応説明しておこう。
 茶髪ロンゲで鋏をくるくる回している少年は鳳凰堂・虎鉄。
 呆れたような諦めたような顔の黒髪少年は天野・夏優。
 共に結社『寮つき手芸部』のメンバーであり、学生寮『木漏れ日の館』の寮生である。
 そして現在二人がいる、いたるところに所狭しとガラクタの積み上げられたこの部屋は、勿論なのかどうかはともかくも、鳳凰堂・虎鉄の部屋だった。
「うふふ、うふ――よくぞ聞いてくださいました」
 しゃきーんしゃきーん、と鋏を開閉しながら振り向く虎鉄。
「実は……」
 その顔に浮かんだ不気味なにんまり笑いに、非常に嫌な予感を覚えつつも頷く夏優。
「実は……?」
「実は………………」
「じ、実は………………?」
 ごくり。
 妙な沈黙に思わず唾を飲む。
 しゃきーんしゃきーん。
 耳障りな鋏の音が静寂を八つ裂きにする。
 すぅ。
 虎鉄の肺が酸素を取り込み。

「――試験勉強を や ら な い か ?」

「聞かずにホイホイついて来ちまった自分を呪うッッ!!!」
 一瞬の躊躇いも一切の遠慮も無く振りぬかれた右のナックルが虎鉄の頬を見事に打ち抜いた。
「って、試験勉強?」
「ぐふ……っ、いい右、持ってるじゃあ、ない、ですか……」
 ゴミのように床に転がったままガクガクといい感じに痙攣する虎鉄。
 どうやらその手の鋏には何の意味も無かったらしい。
 大方、何かの小説でも偶然読み返したのだろう。
――それはともかくとして。
「あぁ、そういや試験は明日じゃないか! うわっ、俺本当になんでこんなところにいるんだ?」
 床の上でパンチドランカーになりつつある友人には眼もくれる事無く、あちゃあ、と頭を抱える夏優。
 と、そこでなにやら思い当たる事があったのか、眉をしかめる。
 あれ?
 そもそも俺、いつこの部屋にきたんだったっけ?
「たしか勉強の合間に食堂に飲み物を取りに行ってたはずなんだが………」
「あー、それはですねぇー。廊下を歩いてたらちょうど食堂から出てくる夏優さんを見かけたのでー、ちょーっと背後から忍び寄ってCQCをば」
 いつの間に復活したのか、頭を抱える夏優の背後で虎鉄がクイックイッと腕を交差していた。
 それはまぁ、なんと言うか……ちょうど人の首を背後から絞めるような動作だった。
 もっと言うのならば、白兵戦の基本を思い出したんだZe!的なジェスチャーだった。
「白兵戦の基本を思い出したんだZe!」
「実際に言うな!!」
 地の文にまで突っ込みを入れる天野・夏優。
 もはや匠の技であった。
「えぇい、やってられるか! 今は一分一秒も惜しいんだ!! なにせ試験で赤点でも取ろうもんなら、冬美のやつにどんなメに合わされるか……」
「相変わらず尻に敷かれてますねぇ」
「うるさいっ! とにかく俺は部屋に帰って鍵をかけて閉じ篭らせてもらうからな!!」
「試験勉強で死亡フラグ!?」
「探偵小説に喩えるなら『残り生存者:俺一人』ってくらい追い詰められてるんだ!!」
「なんという大量虐殺!!」
「犯人はこの中にいるっ!」
「貴方しかいねぇーーーーーっ!!」
 はぁ、はぁ、と肩で息をする二人。
 ここで彼らのどちらがツッコミでどちらがボケなのかを議論するのは無意味だろう。
 明らかに二人とも駄目駄目だった。
「……と、とりあえずですねぇ。せっかくですから一緒に勉強しない、かなぁ、と思いまして……」
「ゲホッ……あぁ、戦力が増える分には……か、歓迎だ……」
 という訳で。
 彼らの試験勉強――という名の一夜漬けが始まったのであった。


「……で、なにやってるんだお前?」
 勉強を開始してから一時間ほどが経過した頃。
 唐突に天野・夏優は顔を上げた。
 否、それは唐突と言うほど突然の事でもなかっただろう。
 夏優は先ほどから事あるごとにチラチラとそちらを窺っていたのだから。
 で、その対象とは勿論。
「ほぇ? なんですかぁ?」
 自分の机に向かって何かの作業に没頭していた鳳凰堂・虎鉄その人である。
 床にクッションを敷いて脚の短い机――ちなみに、どちらも虎鉄がガラクタの山から引っ張り出したものなのだが、クッションには汚れもなければ破れている場所も無く、机はそのまま店で売っていそうなほどにしっかりしていた――の上に広げたノートに教科書の内容を書き写していた夏優からは自然と見上げる形になる友人は、夏優の見る限りどうやらノートを開いている様子も無ければ、教科書と格闘しているようでもなかった。
 その割には先ほどからしきりにペンを走らせる音が聞こえてきていて、それが気になったのである。
「お前、ちゃんと勉強してるんだろうな?」
「うふふ、うふ――そりゃあも~ちろんですよぉ~」
 にやり、と不敵に笑った虎鉄は最後に勢いよくペンを走らせると、
「魅せてあげましょう! これが私の勉強法だぁぁぁぁっ!!」
 ジャーン、と『ソレ』を掲げてみせた。
「なっ!? こ、これは! まさかッ!!」
 虎鉄が真っ直ぐに突き出したその手に握られていた物。
 真っ白な紙片を幾枚も束ねたようなソレには、まるでタイトルのように一つの文字が記されていた。

――カンニングぷぇ~パ~

 と。
「………単語帳です」
「嘘をつけぇぇぇぇぇぇーーーーっ!!!」
 この野郎、まさかそこまで手段を選ばない外道だったのか!
 とばかりに立ち上がる夏優に向かって、虎鉄は余裕の表情でチッチッと立てた指を振る。
 実にむかつく仕草であった。
「まぁ、落ち着きなさい夏優さん。これは別にカンニングのためのものではないんですよ」
 ニヤリ、と。
 どこか悪戯っぽい、それでいて酷薄でもある笑みを浮かべる虎鉄。
 その、冗談では見せる事の無い友人の表情に、夏優は思わず口をつぐんだ。
「いいですか? 古来日本には、ある道具が存在しました。いえ、『未来』には、と言った方が正確でしょうか……その道具は自身に記入された事柄を、その道具を食べた者に自動的かつ絶対的に記憶させてしまう――という恐るべき能力を持った道具でした」
 それが重大な秘密であるかのように、抑えた声で語る虎鉄。
 あれ?
 けどそれって………
「まぁ、ドラえ「それ以上は言うなぁッッ!!」パンの事なんですが」
 おや、どうしました?
 と首を傾げる虎鉄に、夏優は思わず頬を伝う汗を拭った。
 この野郎、なんて危険な事を……危うく消されるところだったぞ。
「まぁ、つまりはそれにヒントを受けて考案したのが、この勉強法って訳です」
 得意げに語りながら、単語帳を開いていく虎鉄。
 おいおい、まさか。
 そう夏優が言葉にするよりも早く

――咀嚼音が、部屋を支配した。

 。
 た。
 いた。
 ていた。
 っていた。
 喰っていた。
 鳳凰堂・虎鉄は、単語帳を喰っていた。
 その光景をなすすべも無く眺めながら、天野・夏優は内心で驚愕していた。
 驚愕と同時に、理解していた。

 成る程……これが虎鉄の勉強方法。
 学習内容を記入した道具を喰う事で、その知識を自分のものとする。

 つまり――喰えば喰うほど、賢くなる。

 最早言葉もなく。
 ただ無言で見守る夏優の前で。
 ソレは処女雪の如く白い紙片を一片残さず貪り終えた。
 貪欲な獣が喰らい漁った獲物の骨にそうするように、単語帳を持っていた手をベロリ、と舐め上げた虎鉄は、どこか人間らしさを欠いた緩慢で歪な動作で顔を上げると、夏優に向けてゆっくりと口を開いた。
 その狂喜と狂気と凶喜と凶気を湛えた瞳が、語っていた。

   ワレ チ ヲエタリ
――我、『智』を得たり

 と。





 なんてことがあるはずも無かった。
 異物を大量に摂取した虎鉄は急激な体調不良に見舞われ、夏優の目の前で卒倒した。
 180cm下の板敷きの床へと思いっきり後頭部からいった。
 それはもう見事なまでの失神であった。
「……………」
 仰向けに倒れたままピクピクと痙攣する友人……もとい馬鹿を見下ろして。
 天野・夏優は、呆れたように、諦めたように、呟いた。
「部屋帰って勉強しよ」

 とても正しい判断だった。


ギャフン~終劇~

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神無月

Author:神無月
神無月(かんなづき)と申します。

主に株式会社トミーウォーカーのPBW『TW2:シルバーレイン』用のブログとしてなんか色々とまったりペースで徒然事が書かれています。
いぇー。

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