スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

【IF Another despair side:s】 悪魔とメイドと蛇の人


お久しぶりです。
なにやら皆さん過去の世界を旅しておられるようなので
今回は幕間、移動中の彼らでもご紹介してみます。
では、まったりと参りましょう。


 朱(アカ)い空の下を、一台の自動車が走っている。
 道も無いデコボコの地面の上をグングンと力強く進んでいる。
 自動車と一口に言っても色々な種類があるが、ここでのそれは広義的なところの自動車ではなく、四つのタイヤと一つのエンジンを積んだ、いわゆる一般的な意味での自動車である。ついでに言えば軍用のジープと呼ばれる自動車だ。
 そのジープは極めて奇妙な積荷を載せていた。
 まず、運転席。
 サラサラと風に揺れる金色の髪に、遠い昔の空のような青色の瞳の男。
 とある一神教のとある役職の人間が着る、とある衣装を身に付けている。
 いわゆる僧衣服(カソック)である。
 つまり、彼は神父なのだろう。
 次に、助手席。
 風に乱されないように三つ編みにした烏の羽の色の髪、紫陽花にとてもよく似た色の瞳の女。
 とある職業に就く女性が着る、とある衣装を身に付けている。
 いわゆる女中(メイド)服である。
 つまり、彼女はメイドなのだろう。たぶん。
 そして最後に、後部座席。
 何枚かのベージュ色の厚紙でできた平板状のシート、それらを組み合わせて作られた立方体。
 とある潜入任務に就くとある工作員がたまに被る、とある名称の箱が置かれている。
 いわゆるダンボール箱である。
 つまり、それはダンボール箱なのだろう。たぶん。いや、ちょっとおかしくない?
「のぅ、“悪魔”殿」
 ダンボール箱が喋った。
 少し高い印象を受ける男声である。
 どうやらそのダンボール箱は知性を持つ生命体で、かつ性別は男性であるらしい……なんてことは当然なく、どうやらそのダンボール箱の中には人が入っているらしかった。
 ちなみに、ダンボール箱には大きな赤文字で『不良品』と書かれていたりする。
 まぁ、それはともかくとして“悪魔(ザミエル)”――狩猟の悪魔の名で呼ばれた神父は、その背後からの声にバックミラーを見る事も無くピクリとも視線を動かす事も無く、それどころか返事をする事さえ無く完膚なきまでにガン無視(シカト)を決め込んだ。
「“悪魔”殿ー?」
 二度目の呼びかけ、当然のようにゴン無視(シカト)をかます神父。
「エロイムエッサイ悪魔君ー」
「眉間とケツに穴を一個ずつ増やしてやりましょうか“殺戮仕事”?」
 三度目の正直、の諺(ことわざ)の通り。
 神父は――どこからか取り出した大口径の拳銃を手に――ようやく反応を示した。
 視線は前を向いたまま、しかし言葉に篭っているのは冗談抜きの殺意である。
 一方、“殺戮仕事(ワーカーホリック)”と呼ばれたダンボール箱、もといダンボール箱の中に入っている男は、至極のんびりとした声で答えた。
「聞こえてるなら返事をしてほしいのでござる」
 実にまっとうな正論であった。
 勿論、彼とてそんなものは判りきっている。
 つまり、判った上でメガ(2の20乗)無視をしていたのであった。
「返事なら今しましたよ。で、なんですか? 答える気はありませんが」
 実に忌々しそうな声で問う金髪の神父。
 もっとも、問いの後に回答拒否宣言が引っ付いているのを「問う」と呼ぶのであれば、だが。
 で、そんな事お構い無しに問いを返すダンボール箱。
「うむ、これで数十回目になる質問でござるが、拙者らはどこに向かってるんでござるか?」
「………」
 ギガ(2の30乗)無視であった。
 それこそ、いつ「聞こえんなぁ」と言い出してもおかしくないくらいの壮絶な無視であった。
「貴殿、拙者の話を聞いてるでござるか?」
「………」
 テラ(2の40乗)無視であった。
 それこそ、いつ「あーあーきーこーえーなーいー」と言い出しても以下略。
「……あ、ひょっとして『答える気は無い』から答えてないんでござるか?」
「………」
 正しくその通りな回答さえもペタ(2の50乗)無視であった。
 それk(ry
「むむぅ、なんと言うイジワルでござろう……このツンデレさんめ」
 神父はゼロコンマ以下の躊躇も無く後部座席に向けて引鉄を引いた。
 轟音。
 刹那の後に金属音。
「危ないでござるなぁ、当たってたら死んでたでござるよ」
 そしてその後に、何一つ変わらない暢気な声が続いた。
 どのような手段によるものかは知れないが、どうやら“悪魔”の放った銃弾は“殺戮仕事”の手によって弾かれてしまったらしい。人体など容易く吹き散らしてしまう音速超過の破壊の牙を、ダンボール箱に入ったままで、しかも、それこそまるで当たり前であるかのように、である。
 が、それに驚くような人間もまた、この車内にはいなかった。
「さて、何の事でしょう?」
 首を傾げつつ微笑む神父。
 見てみれば、拳銃はどういう訳か既に影も形も無く、まるで何事も無かったかのように両手でハンドルを握っていたりする。この神父、よりにもよって最前のやり取りを無かった事にする気らしい。そのあんまりと言えばあんまりな対応に後部座席のダンボール箱が、後ろから刺しちゃおうかなぁ、と不穏当な考えを抱いたのとほぼ同時に、
「喧嘩はよくありませんわー!」
 助手席で爆弾が爆発した。
 どういう平衡感覚をしているのか、走行中の車の助手席に仁王立ちになってふしゃー、と猫のような威嚇音を発しているのは、ついさっきまで助手席でスヤスヤと眠っていたメイド服の女だった。三つ編みが風に踊り狂い、野暮ったい丸眼鏡の向こうの瞳が「お姉ちゃん怒ってますわよ!」とでも言い出さんばかりに燃えていた。
 まぁ、もっともその格好のせいでこれっぽっちも迫力は無かった訳だが。
 ちなみに普段、彼女は三つ編みでも眼鏡でもない。
 全ては“悪魔”の遊び心という名の姦計である。
 或いは孔明の罠である。
 そうでなければ、たぶんただの趣味だろう。
「喧嘩はよくありませんわ!! 喧嘩はよくありませんわー!!!」
 三回言った。
 とりあえずはそれで高ぶっていた気も落ち着いたのか、ストンと助手席に腰を下ろすメイド。
 とりあえず耳栓代わりに突っ込んでいた指を耳から、スポンと抜く“悪魔”と“殺戮仕事”。
 つまるところこの二人、メイドの主張などこれっぽっちも聞いてなかったのであった。
「とりあえず……お茶でも飲んで、落ち着きましょう?」
 そんな二人の態度に気付いているのかいないのか、足元においてあった鞄からいそいそと水筒を取り出すメイド。一緒に取り出したコップに澄んだ紅色の液体が注がれていく。あっという間に車風に吹き飛ばされていく湯気の中から、二人の嗅覚は甘い芳香を嗅ぎ取った。
「それは……紅茶ですか、“鴉”?」
「はい………昨日、偶然見つけたので……つい、いただいてきて、しまい……ましたの」
「昨日? ああ、あの歯ごたえの無かった集落でござるか」
「はい……最後のおうちで………大事そうに、とってありました……」
「なるほど、それは儲け物ですね」
“悪魔”と“殺戮仕事”の何気なさげな言葉に“鴉(レイヴン)”と呼ばれたメイドは少し照れたような口調で訥々と答える。聞きようによってはなんとも和やかな会話である。だが、その語られている事柄のなんと恐ろしい事か。彼らが口にしているのは、己が手を染めた虐殺の記憶なのだから。にもかかわらず、それを語る彼らには良心の呵責とか罪の意識だとかいうものは何一つ見出せないのである。“悪魔”はまるでピクニックの思い出話に花を咲かせているかのような笑顔で、“鴉”はどこかはにかんだような微笑で、“殺戮仕事”は、まぁ顔自体が見えないのではあるが、声の調子を聞く限りであれば適当に手に取った漫画がハズレだった、とでも言うかのように。

――人の命を、語っているのだ。

「しかし“悪魔”殿、拙者としては集落の襲撃も別に構わないのでござるが、こんなチマチマやってて本当に大丈夫なのでござるか?」
 後部座席からの言葉に“悪魔”はバックミラーに目をやる。
 ついでとばかりに助手席で紅茶に砂糖を投入している“鴉”を盗み見る。彼の視力が確かであるならば、柔らかな微笑を浮かべるメイドの手にある小さな瓶には『アジの素~タラコ味~』とラベルがされている気がするのだが、きっと彼女にはそれが砂糖に見えているのだろう、と納得してあえて黙っておく事にした。
「大丈夫、とは?」
「んー、だって拙者達たった三人でござろう? それは確かに集落の一つや二つ落とすのは難しくないでござるが、全体的に見て、これって本当に庭園に打撃を与えているのかなー、って思ったのでござる」
「………。貴方、ひょっとすると僕が考えていたより賢いのかも知れませんね」
「殺戮するでござるよ?」
 マジで驚く神父とマジで殺意を放つダンボール箱。
 その隣で、まるで別次元にいるかのように和やか空間を展開しているメイド。
 いっそ見事なまでのカオスっぷりであった。
「まぁ、冗談はこの程度にしておくとして」
 日本刀の切っ先にも似た殺気を背中に受けながら、にこやかに言い放つ“悪魔”。
 隣から勧められた紅茶をこれまたにこやかに、しかしこれっぽっちの躊躇も無く「いりません」と断りつつ――断られた“鴉”がしゅーんと小さくなっているのもしっかりと確認してちょっとばかりの満足感を得つつ――サイドミラーの向こう側へと嗤いかける。
「貴方の言も正しいのですが、むしろこの場合は少数である事が意味を持つんですよ」
「と、言うと?」
 ハンドルを握る神父服の青年はまるでとびっきりの悪戯を開陳して見せるかのように、
 楽しげに歪めた双眸に溢れんばかりの悪意を湛えて、言った。
「僕達と『庭園』の戦いは、巨象と蟻の戦いに似ています」

「ねぇ“殺戮仕事”? 貴方は、象と蟻が戦ったら、どちらが勝つと思います?」

「ああ、なるほど。そういう事でござるか」
「そういう事です」
 ただそれだけの、なぞなぞめいた言葉だけで理解がいったのか、ポンと手を打つ“殺戮仕事”。無論、ダンボール箱の中に入っているので見えたわけではないのだが、微かな音を“悪魔”は聞き取っていた。
「つまり、数の不利を逆手に取ってるんでござるな?」
「ご名答」
 自分達と『庭園』の違いは、即ち数の差である。
 向こうは多く、こちらは少ない。これは本来、そのまま有利不利に繋がる問題であるのだが、この数量的不利が優位に働く点が存在する。
 それは即ち――
「機動力、そして防御を必要とする規模の差、ですよ」
『庭園』は組織である。
 組織である以上、守るべきはその組織に与する全てだ。だが、それは組織が巨大であれば巨大であるほどに比例して広がっていき、全てを守りきる事は困難となる。無論、組織であるが故に不必要な部分を守らず、切り捨てるという選択肢もまた存在するのだが。
「その場合、『庭園』は特区住民からの信頼を失う」
 自分を守ってくれず、むしろ見捨てるような存在を誰が頼ろう。
 故にその選択肢は考えなくてもいい、と“悪魔”は笑い、続けた。
「『庭園』は巨大な組織で、対する僕達はたった三人の矮小なチームです。しかしそれは、僕達が守るべきものはただ自分達だけ、という事にもなるんですよ」
 圧倒的多数対圧倒的少数。
 多勢に無勢。
 覆せぬ差を、数える対象、勝負する項目自体を変える事で、盤面ごとひっくり返す。
 それはまさしく、悪魔のような弄言(トリック)だった。
「加えて言えば、たしかに『庭園』は巨大な組織ですが、その実僕達を止め得るほどの戦力は限られている。それはつまり僕達を止める方法もまた限られている、ということです。具体的に言えば……そうですね、“教主”を除けば本当に一握りの強力な能力者達をぶつけるか、圧倒的な数量で押し潰す、というところでしょう」
 さて、と一呼吸置いて続ける。
「それだけの戦力をこの広大な特区全域に配置するだけの物量はさすがに『庭園』にもない。精々、いくつかのエリアに配置する程度でしょうね。そんな戦力と、ランダムに特区全域を走り回り散発的に襲撃を仕掛ける『たった三人』の人間が出会う確率って、どれくらいのものだと思いますか?」
 笑いを含んだ“悪魔”の言葉に、うーむ、と唸る声が返る。
 彼の説明を吟味していたのだろうダンボール箱は、溜息のような音を一つ立てると、それはもう心から感心したかのように言った。晴れやかな笑顔が目に浮かぶような声だった。
「いやぁ、貴殿ってほんっっっとうに根性腐ってるでござるなぁ」
「……“鴉”、彼に紅茶を振舞ってあげなさい」
「ん? これはこれは、かたじけない」
 ダンボールが少しだけ持ち上がり、“鴉”から受け取ったカップを内側に収める。
 そして。
「おぶぅぁがっは!!」
 後部座席であがった断末魔を“悪魔”はやっぱり無視するのだった。

スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

神無月

Author:神無月
神無月(かんなづき)と申します。

主に株式会社トミーウォーカーのPBW『TW2:シルバーレイン』用のブログとしてなんか色々とまったりペースで徒然事が書かれています。
いぇー。

最近の記事
月別アーカイブ
カテゴリー
リンク
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。