スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

【IF Another despair side:s】 少年の日の思い出(仮)


今回の更新分には、或いは人を不快にする表現が含まれています。
もしも気分を害されたとしても、私は責任取りません。

上記を確認の上で、それでも構わないという方のみお読みください。


【20XX年 封鎖特区 横浜】

 始まりにして終わりの地、鎌倉。
 世界結界はもはや意味をなさず、
 敵性来訪者の来襲、そしてシルバーレインによるゴーストの発生により荒廃した地。
 そのすぐ隣に存在する特区。
 終末のお隣さん、とも揶揄されるもう一つの封鎖特区。
【封鎖特区・横浜】
 から遠く遠く遠く離れたある場所。
 地球儀を半分ほど回した場所にある小さな島のある街。
 古くは霧の街とも喩えられた都市の一角にカメラを移そう。
 
 エノシマ・エリア近郊居住区二番勝負“葬失”VS“教主”が行われる少し前の話である。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 Joy to the world!
 The Lord is come
 Let earth receive her King
 Let ev'ry heart prepare Him room
 And heaven and nature sing
 And heaven and nature sing
 And heaven and heaven and nature sing


「主は来ませり~♪ 主は来ませり~♪」
 それはとても異様な光景だった。
 いかにも廃屋といった風情の、ボロボロに老朽化したアパートメントの一室。ベッドも椅子もカーペットも衣装ケースも無いがらんどうの空間。壁紙さえ年月の経過と共に朽ち果てたのか、コンクリートが剥きだしになった部屋。
 そこに、一人の若い男がいた。
 中肉中背といった平均的な――と言ってもそれはこの国での平均であるが――体躯の男は、砂金のような髪をサラサラと揺らしながら、ちょっとした行為に没頭しているのだ。
 別にそれだけなら、まぁ多少の奇妙さはあれ異常と言うほどではない。
 問題は、まだ少年とさえ呼べそうな童顔の男が鼻歌交じりに行っている行為にある。
 金髪の男は――包丁を砥いでいた。
 それも普通の包丁ではなく、日本の昔話に出てくる鬼婆が持っていそうな、ブ厚く、大きく、見る者に不吉な印象を与えずにいられない無骨な刃物。牛や豚といった大きな動物を捌く際に使用される、解体用の包丁である。
 ここまで来れば完全に異様と言っていい。男の正気を疑いたくなる光景だ。
 或いは男が板前の服を着ていれば――それでも十分すぎるほどに違和感だらけではあるのだが――まだ納得もできたかも知れないが、彼の服は神父が着るカソックと呼ばれるものだった。
 そんな男の傍には、これまた奇妙なオブジェクトが転がされていた。
 全てが過去に死に絶えた部屋の中に響く陽気な鼻歌。
 シャー、シャー、と一定の間隔で鉄を砥ぐ音。
 部屋をただ一つ飾る異形のオブジェ。
 タチの悪い冗談のような、ひどくシュールな光景。
 そんな薄暗い部屋に、突然軽快なメロディが生まれた。
 一昔ほど前まで首都近郊の一地区に王国を築いていたとあるネズミのテーマソングである。
 僕らの愉快なヒーローを讃える歌を奏でる携帯電話を取り出すと、
 男は面倒くさそうに通話ボタンを押して携帯を耳に当てる形で肩に挟んだ。
 通話中も手を止める気は無いらしい。
 この男、神父の格好をしている癖に礼儀という物とは無縁のようだった。

「Hello? Who's speaking, please ?
……ああ、いえ、日本語で構いませんよ? あはは、別に貴方に気を遣っているのではないのでお気になさらないで下さい、僕の母国語を貴方の便所臭い声で汚して欲しくないだけですから。それで、ご用件は何でしょう? 僕もそれほど暇という訳ではないので簡潔に、貴方のディックくらい短くしてもらえるととっても助かるのでお願いできますか?」

 シャーッ、シャーッ

「どうしました、聞こえてませんか? もう一度言いましょうか? ああ、必要ない? ふふ、冗談が通じない人ですねー。こんなのちょっとしたジョークじゃあないですか。冗談を解さない人は早死にしますよ? 僕個人の意見としては早死にして欲しいんですけれど……え? 真面目に話せ? 驚いたなぁ、どうして僕が不真面目に話してるって判ったんですか? あはは、判りました判りました。降参ですよ、ちゃんと聞きますから。で、お話って?」

 シャーッ、シャーッ

「ええ、お噂はこっちの方にも届いてきてますよ。なんだかそちらも大変だそうですねー。まぁ、それを言ったら世界中似たようなものでしょうけれど………はい? 今、なんと?」

 シャーッ、シャーッ

「あははは、何かと思ったら。そちらの事なんて僕には関係ないじゃあないですか。ニップ共が二人死のうが二兆人死のうが何人死のうが知ったことじゃあないですね。精々殺しあってせいせいと死んでください。心配しなくても地獄の釜になら貴方達の居場所もあるでしょう」

 シャーッ、シャーッ

「そんなに怒らないでくださいよ、怖いなぁ。耳が腐ったらどうするんですか? ナッツでも食べて落ち着いてみたらいかがです? 貴方そういうの得意でしょう? それともジミーさんの方がお好みですか? あはははは♪ 冗談ですよ冗談、軽い友好の挨拶です。こちらでは常識ですよ? 知りませんでした?」

 シャーッ、シャーッ

「まぁ、どちらにせよお断りしますよ。自分達のお尻くらい自分達で拭いてください。僕にはそんな趣味はありませんから貴方と違って。ホラ、そっちにもいるでしょう? あの学園卒の、首輪のついた豚が。その人達に舐めさせてあげればいいのでは……は? ロスト? 何のことでしょう? そちらで失くし物をした覚えは………」

 シャーッ、シャーッ

「あぁ……なるほど、失くし物ではなく『忘れ物』の方でしたか。
 そうかぁ、まだ生きてるんでしたね、あの人。
 JESUS(畜生)、すっかり忘れてた」
 
 シャーッ、シャーッ

「はい? ああ、なんでもありません。ちょっと要らなくなった玩具を処分しようかな、と。それで、その仕事なんですけど……ええ、お受けします。貴方の思惑に乗るのはちょっと気にいりませんけれどね、それぐらいは我慢しますよ。はい、では数日中にそちらにお伺いします。いえ、必要ありません。カードの国外持ち出しと……ああ、あとはそちらで幾つか揃えておいて欲しいものがあるくらいですね。限定解放? あはは、いりませんよ。僕は能力者としては落ち零れもいいところですから、肉体能力制限と物品収納制限だけ外しておいていただければ……ええ、結構です」

 シャーッ、シャーッ

「………え? 名前? いや、ご存知だからかけてきたのでは……“二つ名”? そんなので呼び合ってるんですか、そちらの人は。ふぅん……いいですね、面白いです。うん、そうですね、僕だけ違う名前使っちゃったらなんだか空気読めてないみたいですし。流行にはとりあえず踊らされるのも楽しいものですから……うーん、そうですね。それでは

 僕のことは――“悪魔(ザミエル)”とお呼びください」


「さて、と」
 ちょうど研ぎを終えたのだろうか、
 通話を終えた携帯をポケットに仕舞うと男は無造作に砥石を放り捨てた。
 床に落ちた砥石が硬質の音を立てる。
 刃先の具合を確かめるようにためつすがめつ。
 窓を閉め切っているせいで光を反射するような事は無かったが、それでも鈍色の刃物はぬめるような光沢を持って男の眼を刺した。
 刃身に映る瞳の色は、澄んだ青。
 いつか見上げた遠い空をそこに重ねて、男は楽しそうに微笑んだ。
 わぁ、なんて下らないロマンチズムなのでしょう。
「死ねばいいのに♪」
 軽い口調で呪詛を吐く。篭る感情は侮蔑と嘲笑。
 禍々しい凶器を弄いながら、男は足元に転がるオブジェクトに視線を移す。
 何事か口にしようとして、ふと思い止まる。
――唐突ですがシンキング・タイムです。
 この前衛的すぎるし芸術でもない玩具に、なんと題名(なまえ)をつけましょう。
 羽根を無くして蟻に運ばれた蝶々ちゃん?
 俎板の上の鯛(調理工程突入済)ちゃん?
 割れたステンドグラスのマリアちゃん?
 飛べない鳥、泳げない魚、走れない獣、考えられない人間ちゃんかな?
 それとも、クジャクヤママユとかけて少年の日の思い出ちゃんとかどうだろう?
「うーん、どれもしっくり来ませんね」
 ネイミングにはセンスが問われる。
 一言でその作品のテーマと概要を表現し、さらに見る者の興味を惹かなければならない。
 洒脱と冗句、一滴の言葉遊び(リリック)が加えられれば最高だ。
 だが、どうやら自分にはそういった才能が無いらしい。
 男はあっさりと思考を放棄する。どうせ元々芸術作品を作っていた訳でなし。
 ただ手慰みと暇潰しを兼ねた趣味に耽っていたらちょっとアートっぽくなった、というだけだ。
 それに、正直に言えば男はそろそろ飽きていた。
 娯楽というものは甘いお菓子のようなものだ。
 同じものをずっと食べ続けていたのでは飽きてしまう。
 飽きたお菓子は、勿体無いけどゴミ箱にポイするか誰かにあげてしまうか、そんなところだろう。
「……となると、今回の件は渡りに船、というやつなんですかね」
 ふむ、と何やら納得したように呟くと、
 それなりに背の高い男は体を折り畳むようにしてしゃがみ込んだ。
 蟻の巣を覗き込む子供のような、どこか無邪気さを感じさせる仕草。
「さて」
 と前置きをして、彼はとても優しく微笑んだ。
 仲睦まじい親子を眺める穏やかな昼下がりにふと漏れ出すような、柔らかい笑顔。
 金髪碧眼の“悪魔”は、教会のモザイクに描かれた天使のような笑顔で、
「君にもいい加減飽きてしまったので今日こそ殺してあげようと思うのですが……

 ねぇ、君? 君は、どんな風に“殺されたくない”ですか?」

 まだ幼い少女の頬を撫でた。
 数日前に切り落とされた舌で、少女は絶叫した。

スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

神無月

Author:神無月
神無月(かんなづき)と申します。

主に株式会社トミーウォーカーのPBW『TW2:シルバーレイン』用のブログとしてなんか色々とまったりペースで徒然事が書かれています。
いぇー。

最近の記事
月別アーカイブ
カテゴリー
リンク
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。