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虎鉄の日記:満月の下の舞踏会


――夢を見た。

 その夢の中で、私は浮かんでいた。
 身動き一つとれない。
 それどころか、肉体の存在すら感じない。
 視覚だけが体から切り離されてしまっているかのようだ。
 それなのに、私は自分の体が“在る”と確信している。
 自分の体がどこかに浮かんでいるのだと、知覚している。
 奇妙な矛盾。
 なのに、私はそれが“自然”な状態なのだと理解していて――

 
 視界は、一面の青に塗り潰されている。
 果てのない青色がどこまでも広がっていて、私はどうやらその只中に浮かんでいるらしかった。
 昇っていくのでもなく。落ちていくのでもない。
 上も、下もない。
 ただ無限の青色の中心で浮かんでいるだけ。
 あまりにも不確かな感覚。
 なのに、不安は感じなかった。
 むしろ奇妙な安心感すらあった。
 ここはどこなのだろう。疑問を感じた。
 ここは空の上だ。疑問は無くなった。
 その答が誰の発したものだったのか、どうしてそれが正しいと判るのか。
 そんな疑問すら、浮かんだと同時に消えていった。
 全ては、ただそうであるように。
 私はただ、無限の空の真ん中に浮かんでいる。
 そうするうちに、音が聞こえてきた。
 なんの音だろうか。疑問を感じた。
 答は返ってこなかった。
 幸いにして眼球だけは思い通りに動かす事ができたから、私はそちらの方を見てみる事にした。
 どこまでも続く青。
 その向こうから、なにかがこちらにやってくる。
 最初は針の先ほどの大きさだったそれが、近づくにつれて徐々に大きくなっていく。
 それと共に、その音もまた大きくなっていった。
 もう、それはすぐ目の前にまで迫ってきている。
 浮かんでいる私の視界。
 一面の青色を真っ直ぐに切り裂いていくそれは――
「きーーーーん」


 未確認飛行物体だった。
 どうしようもないくらい未確認だった。
 いっそ確認したくない系統のものだった。
 ってゆーかなんで「みつかっちゃいましたか!」みてぇな顔してるんだよ。
 ってゆーかプロペラじゃあねぇのかよ。
 そのしっぽはなんだ。飾りか? 偉い人には判らない類の理由なのか?
「プロペラは故障中なのですよ~」
 聞いてもいないのに律儀に答える未確認飛行物体。
 そうか、プロペラが壊れてるとジェットになるのか。
 どう見ても技術的にパラドックスじゃあねぇかよ。
 そんな事を考えながらも、平穏な浮遊状態にあった私の体は、急速に落下を始めていた。
 堕ちていく。真っ青な空に向かって。
 意識が途切れる瞬間、遠い青色の中でUMAが手を振っていたような気がしたが――
 
 見なかった事にして、私は静かに目を閉じた。

……………………
……………
……




「と、ゆー夢を見たんですよぉ」
「むぅ……なんとも不思議な夢だな」
 その夜のこと。
 寮の談話室で、虎鉄は同じく寮生であるウル・ファマナシヴァル相手にくだを巻いていた。
 グデーと机に体を投げ出した虎鉄の横で、金色の髪を揺らしてクスクスとウルは笑う。
 夢の話が面白かったというよりも、打ちのめされている虎鉄を眺めるのが楽しいのだろう。
 口元に手を当てて、いかにも上品に笑う少女を虎鉄は横目に眺める。
 こうしてるとやっぱり歳相応の女の子なんだなぁ。
 などと聞きようによってはとても失礼な事を考えていると、不意にウルと目が合った。
 慌てて――だと怪しまれるので、ごく自然に視線を逸らす。
 そんな虎鉄の視線を逃がすまいとするように、ウルは体を乗り出し微笑んだ。
「……それで? そんな事を話しにきたわけじゃないんだろ?」
「あらら? バレてました?」
 虎鉄は机から起き上がると、まいったまいった、と肩をすくめて見せる。 
 というか、元々隠す必要もない訳で。虎鉄は机の下に放り込んであった大きめの鞄を引っ張り出すと、その中身をウルの前に広げてみせた。
 猫のように細められていたウルの目が、驚きに見開かれる。
「これは……どうしたんだ?」
「以前お話した時の約束ですから~、遅くなっちゃいましたけどね?」
 虎鉄が鞄から取り出したのは、ゴシック調の装飾が施された一着の服。
 目に鮮やかな真紅のドレスは、ウルのサイズピッタリに作られていた。
 自分のために作られたのだろう衣装を手にとって、ウルは驚いたような表情でそれを眺める。
 まんまるに見開かれた瞳に浮かぶのは、おもちゃを買い与えられた子供のような輝きだ。
 それを見て取って満足げに胸を張る虎鉄。一ヶ月以上もコツコツと積み重ねてきた努力が報われた瞬間であった。
「まぁ、私の実力不足と大人の事情ってやつで細部はちょっと適当ですけどねぇ? 良ければ、着て見せていただけませんか?」
「うむ……ちっと向こう向いててな?」
 ワクワクを隠し切れない声に背を向ける。
 間も無く、背中越しに衣擦れの幽かな音が聞こえてきた。
「………」
 静かな時間が過ぎる。
 談話室の壁に据えられた柱時計の秒針がチクタクと時を刻む音と、柔らかな布が擦れ合う音。
 それと自分の心臓の音だけが沈黙を満たしていく。
 手持ち無沙汰になって、虎鉄はガリガリと頭をかいた。
 さすがに振り向こうとまでは思わないようだが、それでも気にはなるらしい。
「………良し、振り向いても良いぞ~♪」
 ようやくかけられた声に、なんとなくおそるおそる振り向いて
「うわぁ………」
 虎鉄は続く言葉を落っことした。


 振り向いた先。
 咲き誇る紅薔薇のように鮮やかな衣装に身を包み、椅子の一つに腰掛けた少女が、組んだ脚越しに微笑をなげかけていた。
「これはまた………なんとも」
「どうだ…似合ってるかな??」
 立ち上がり、クルクルと回ってみせるウル。
 背中側までしっかりと確認できるようにだろう。少女がターンを刻むたび、真紅のスカートと金色の髪が柔らかなカーブを描く。
 それはさながら御伽噺のように幻想的な光景だったが――
「うーむ……」
 それを眺める虎鉄の顔はなんとも苦い。
 不味いインスタントコーヒーをブラックで一気飲みして、吐き出したいのを我慢して無理矢理に笑っているような表情だった。笑顔の残骸のようなものが口の端に張り付いてブラブラと揺れていた。
 その表情にウルの動きが止まる。
 軽やかだった足取りは重く鈍り、嬉しそうに輝いていた瞳は不安げに曇った。
 無理もない、と言うかそんな顔をされて気にしない奴はいない。
「う……どこか変だったか………?」
 普段なら見る事も無い、少女の沈んだ表情。
 それでようやく、虎鉄は自分がどういう顔をしていたのか気付いたようだった。
「あ、ああ、いやいやいや! ちゃいますちゃいます、とってもお似合いでしたよ~?」 
 慌てて弁解するも説得力がなさ過ぎた。
 とうとう俯いてしまったウルに虎鉄は天を仰ぐ。仰いだところで天上しかない訳だが、そこはあまり気にしない。ヤッチマッタ、というジェスチャーだ。
 とりあえず自分の浅薄さを内心で罵って、虎鉄は膝を折った。
 細長い体を無理矢理折りたたむようにして、俯いた少女と視線を合わせる。
「あのぅ……本当に似合ってましたよ? ただちょっと……私が元ネタに似せて作りすぎちゃったと言いますか、そっくりすぎちゃったと言うか……あの、まぁ、私の失敗だった訳ですし、だから本当にウルさんは悪くなかったんですよ?」
 しどろもどろである。実に情けない男であった。
 それでも、一応は言わんとしている事は伝わってくれたらしい。
「………本当か?」
 ウルは少しだけ顔を上げると、上目遣いにそう言った。
「勿論本当ですよー。インディアンウソツカナイアルネ」
 異常に嘘臭かった。小ネタを挟まないと喋れない病にでもかかっているのだろうか。
 少女はまた俯くと、消え入りそうな声で言った。
「………虎鉄、ちょっと」
「? はい、なんでしょう?」
「顔をもうちょっと近づけてくれ」
「はいはい?」
「ぱんちっ!」
「あうちっ!?」
 ごす、とウルの小さな拳が虎鉄の顔面を捉えた。
 それほど痛くも無かったろうが、体勢を崩した虎鉄はそのまま後ろに尻餅をつく。
 殴られた場所を押さえながら顔を上げると、ウルがこちらを見下ろしてクスクスと笑っていた。しばしその表情に目を奪われて、それでようやく、引っ掛けられたのだと気付く。
「むぅ……やられちゃいましたか」 
「悪いのはお前だろ? ま、それでゆるしといてやるさ♪」 
 悪戯に笑って、少女は踵を返した。
 真紅のドレスが翻り、向かった先は、テラスへと続く窓だった。
 虎鉄が立ち上がる間にも、ウルは窓を開けて出て行ってしまう。それを足早に追いかけて、虎鉄もまたテラスへと抜け出した。そうしないと、そのまま消えてしまいそうな気がした。
 勿論、そんなものは気のせいで。
 談話室をでてすぐ、真正面の手すりに背を向けて、少女は彼を待っていた。
 月が出ている。
 空の高いところに、ぽっかりと浮かぶ真っ白な月。
 その下で、少女は静かに微笑んでいる。
「さっき、さ……そっくりすぎてダメだって言ってただろ?」
 音も無く降り注ぐ月光が、少女の表情に淡い影を作る。
 ウルは少し首を傾げるようにして、髪留めに手を添える。 
「じゃあ――これだとどうかな?」 
 ウルは左右の髪留を同時に解いて。

 そして、少女の背に金色の羽根が咲いた。
 
 鳥が翼を広げるように、花の蕾が綻ぶように。
 少女の長い髪が夜の風に解けていく。
 息を呑む。目を奪われる。
 世界が色を無くした。月光でさえ色褪せた。
 時間が止まった。そう錯覚した。
 一瞬のはずの光景が、永遠のようにそこにある。
 往生際の悪い網膜が、その光景を何度も何度も映し出す。
 失う事を恐れているかのようだ。
 上質な蜂蜜よりも甘い金色の奔流は、まるでその一本一本が宝石であるかのように煌いて、直視するだけで眼球から脳髄まで串刺しにされてしまいそう。豪奢な髪はテラスの床を擦るほどに長く、それでいて一分の隙も無く流れ落ちる。
 虎鉄はただそれ見ていてた。
 軽口の一つも浮かんではこなかった。
 知らない。こんなものを表現できる言葉などもってはいない。
 せめてその一筋までもを見逃さぬよう、目に焼き付けておくしかできなかった。
 さやと、風が吹く。
 少女の長い髪が揺れて、それでようやく、魔法は解けた。
 世界が色を取り戻す。秒針が再び時間を刻む。
「……どうだ?」 
 夢から覚めたような心持ちで、虎鉄はウルの声を聞いた。
「え? あ、はぁ………」
 間抜けな声が漏れる。誰の声だろうと思ったら、それは自分の声だった。
 頭の中に霞がかかっているようだ。
 どうにもうまく思考がはたらいていない気がする。
 実はまだ夢を見てるんじゃないだろうか、と自分のこめかみを指圧する。
 そんな虎鉄の様子に、ウルは訝しげに首をかしげた。
「むぅ……やっぱり、これでもだめか?」
「いやそれはない」
 今度ばかりは虎鉄も即答した。
 駄目な訳は無い。駄目な訳は無いのだが……ただ、なんと言えばいいのかが判らない。
 判らないけれど、それでも。それでも言葉にするのなら、それは。
「とても――綺麗でした」
 呟いてから、うわぁ、と虎鉄は後悔する。
 なんという陳腐な表現だろう。ありきたりすぎて泣けないけれど泣けてくる。芝居がかった台詞回しが好きなくせにアドリブに対応できないのがこの男の弱点だった。顔に火がともったような気がした。恥かしさのあまり頭を抱えて逃げ出してしまいたくなった。半ば本気でそうしようかと考えた。
 けれども虎鉄がそうしなかったのは。
「そうか………」
 窺うように向けた視線の先。
 月の光を浴びて、淡く金色に輝いているようなその少女が。
 ホッとしたように、安心したように。
 微笑んでいたからだった。
 けれどそれは一瞬の事。
 見惚れる暇もあらばこそ、少女は満足げに一つ頷くと、虎鉄に向かって手を差し伸べた。
 その時にはもう微笑みの種類が変わっていた。
 あどけない顔に浮かぶのはどこか悪戯な微笑。
 いつも通りの微笑で、呆然と立ち尽くす虎鉄にウルは笑いかける。
「な、踊ってみないか?」
「はぁ?」
「はぁ、じゃないぞ? せっかくおめかししたんだからな。それくらいはいいだろ?」
 よほど予想外だったのだろう。
 目に見えてうろたえる虎鉄の様子に、ウルはクスクスと笑みを深くする。
 からかうように笑うたび、彼女の背中で金色が揺れた。
 その笑顔に、驚きは薄れて消えて。虎鉄は呆れたようにガシガシと頭を掻いた。
 笑い出したい気分だった。本気で見惚れていた自分が馬鹿みたいだった。けれど、それを恥じるつもりも後悔する気もなかった。久しぶりに、割と悪くない気分だった。
「……言っときますけど、私、ダンスは苦手ですからね?」
「構わないさ」
 ようやく叩いた軽口には軽やかな返答。
 それを心地よく感じて、虎鉄はサングラスを外した。
 夜の闇の中でなら、つけていなくとも構わない。
 一つに纏めている髪を解いて後ろに流す。シャツのボタンをしっかり止める。せめてネクタイの一つでもしたいところだったが、まあそれは我慢してもらうとしよう。
 一歩少女に近づいて、差し出された手を掲げ取る。
 手の平に受けた少女の手。
 その想像していた以上の小ささに驚いて。
 白磁めいて白い彼女の肌。
 その柔らかさに理由の判らない安堵を感じて。
 少年は少女に言葉を贈る。

 満天の星がシャンデリア。
 音楽は心の中で。
 
「ではお嬢さん、私と踊って頂けますか?」
「はい、喜んで」

 ぽっかりと浮かぶ月の下。
 二人きりの舞踏会。 















――今回のオチ。
「ふぎゃっ!」
「あわわ! す、すいません! 足踏んじゃいましたか?!」
「いいさ、気にするな♪」
「す、すいません……」
「にゃぎー!」
「あわわ! す、すいません!」
「いいさ、きにす」
「気をつけます……」
「きゃうー!」
「あわわ!」
「いいさ」
「も、もうしませんから」
「にゃー!!」
「あ!」

「いい加減下手すぎだばかものー!!」
「もるすぁっ!!」
ウル・ファマナシヴァルの光の槍!
[Critical][Hit]鳳凰堂・虎鉄は99999のダメージ!
鳳凰堂・虎鉄は力尽きた!!

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非公開コメント

ぐはー;

ちょっと記述形式の真似事をしてみたら恐ろしく長くなりました。
うーん、新しい事を試してみるのは楽しいですが、最初はうまくいきませんね;
今回のウル・ファマナシヴァルさんの衣装は言わずもがな薔薇のアレです。
無論細部は削っていますが;
出演ありがとうございましたですよ~ ノシ
では、今回も長文乱文失礼致しました。

綺麗なお話だね。おとぎ話みたいだよ(微笑)

――けど
由那は小首をかしげた。
知らず、片眉があがる。
「……おかしいね。こんなに綺麗なお話なのに……」


「なんで 『 浮 気 者 』 というフレーズが浮かぶんだろう?」

踊りの教本を差し出しつつ…

お疲れだな♪
うむ……イメージどおりというか…なんというか…虎鉄と私のニピンは……(可愛さに悶絶ちう)
っと、とりあえずこの本は読んでおいてくれ♪
今度踊る時は、もっと上手くなっててくれよ??
じゃないと、誘う私が恥ずかしいしな~♪(くすくす
じゃあ虎鉄、また何か衣装でも作ることになったら呼んでくれ。
楽しみにしてるから……な♪♪

PS:なんとなくウルsideを書きたくなった…っと言うのは別の話だ♪

お返事お返事~

>由那さん
う……っ、な、なんででしょうねぇ~;
気のせいではないでしょうかぁ?(汗ダラダラ)

>ウルさん
ええ、次は私もちゃんとおめかしをして、
ウルさんに恥をかかせないように踊りたいですねぇ。
プロフィール

神無月

Author:神無月
神無月(かんなづき)と申します。

主に株式会社トミーウォーカーのPBW『TW2:シルバーレイン』用のブログとしてなんか色々とまったりペースで徒然事が書かれています。
いぇー。

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