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出陣

初の依頼が決まりましたので、その前日のお話です。
幾人かの方に出演して頂いておりますが、自分のキャラはこんな性格じゃねー、とかなんだこの格好悪い役回りは、というご意見ご不満ございましたら遠慮なく仰って下さいまし。
ジャンピング土下座で謝らせて頂きます。
あと、無闇に長いのはご愛嬌。 orz

友情出演
天流・狗星(b10249)
青い瞳の女格闘家
赤い髪の少年剣士

――依頼への出発を翌日に控えた夕暮れ、虎鉄は道場へと足を運んだ。
 
 放課後は道場で体を鍛え、日没に合わせて寮に帰るのが鳳凰堂・虎鉄の日課である。
 校舎裏の森を抜け、結社『絶技クラブ』が学園から借り受けている道場へと辿り着く。
 いつも通りの時間をかけて、
 いつも通りのペースで歩き、
 いつも通りのコースを使い、
 いつも通り道場の前に立つ。
 なにもかもが、いつも通り。

 ただ、いつも浮かべているはずの飄々とした笑みだけが、今日の彼には足りなかった。
 
 クラブの皆が鍛錬に使用しているはずの道場には、誰の気配もなかった。
 いつもなら、授業が終わると同時にスッ飛んでくる女丈夫や、生真面目にも誰よりも早く来て仲間達を笑顔で迎える少年剣士がウォームアップを始めている時間である。それが、今日に限っては誰もいない。常に無い静けさを纏った道場は、気のせいか、どこか物寂しそうにも見えた。
―――珍しいこともあるもんだ。
 訝しむ気持ちと共に寂寥にも似た感覚があったが、まあ、それも今日は有難い。
 引き戸を開けようとして、なんとなく思いとどまり道場を壁沿いに回り込んでいく。
 この道場の横には、誰がどこから拾ってきたのか古びたベンチが添え付けられていた。雨ざらしですっかり変色してしまったベンチは、元々はどこぞのバス停にでも設置されていた物なのだろう、今ではランニングから帰ってきた者が身体を休めたり、鍛錬で篭った熱を外気に逃がす際によく利用されている。ついでに言うなら、そのベンチからは空がよく見えた。ちょうどベンチの正面にあたる場所が木々の切れ目になっているらしく、そこから上手い具合に空が見上げられるのだ。
 そのベンチに向けて、虎鉄は歩いていく。
 空は夕暮れ、黄昏時。
 ボンヤリと眺めてみるのも悪くないだろうと、そう思ったのだ。
 だが、空を望む椅子には、すでに先客がいた。
 琥珀を溶かしたような夕焼けの下、巌のような大男がベンチに腰掛け、空を映したように色鮮やかな朱杯をのんびりと傾けていた。
 太い男であった。
 脚も、腕も、胴も、首も、顔も。身体を構成する全てのパーツが太かった。
 きっと、浮かべる笑顔さえ太いのだろう。そんな夢想を抱かせるほどに、大きな男だった。
 一見すれば肥満体のようにも見えるが、少しでも武術を学んだ者ならば幾条もの刀傷を刻んだその肉がただの脂肪ではなく、その下にブ厚い筋肉の層を秘めた鎧なのだと見抜いただろう。
 彼もまた、『絶技クラブ』の一員である。
 名を、天流・狗星といった。
「おや~、いらしてたんですかぁ、気付きませんでしたよ~」
 狗星が腰掛けるベンチへ近づきながら、ヒラヒラと手を振って軽い挨拶をする。
 その顔には、すでにいつも通りの笑顔が浮かんでいた。
「……うん? おぉ、いかんいかん。癖かのぅ、ついつい気配を消しておったわ」
「ど~んな癖ですか……お隣、失礼しますねぇ?」
 大きな手でピタピタと額を叩く狗星の隣に腰を下ろす。
 細まった瞼の奥からこちらを窺う気配があったが、それもすぐに消えた。
 たぶん、観察されたのだろう。自分が彼に害意を持っているか否かを。自分が彼にとっての脅威となり得るか否かを。観察され、そして判断されたのだろう。特に問題なし、と。自分に近付いてくるもの全てを疑う、それは戦場に身を置く者の基本である。気配を感じられなかったのも、同じ事。本当にリラックスしている時にこそ、己の存在を他者から隠す。それらはおそらく、彼の本能の領域にまで刻み込まれた戦士としての習性だ。戦いによって研ぎ澄まされていった、戦士としての性能だ。だから、別段それを不快とは感じない。
「そういえば、こんな時間におられるのは珍しいですねぇ。なーにかしてたんですか~?」
 いつも通りのおどけた口調で、いつも通りのお道化た笑顔で、いつも通りに話しかける。
「花見ならぬ月見ならぬ、空見じゃ」
「ははぁ、ってコトはその杯の中身は秘密の秘密の般若湯ですかねぇ? んー、いけませんねぇ。私、思わずイドさんあたりに告げ口しちゃいそうですよぉ?」
「ふむ、ならば仕方ない。鳳凰堂殿も一献どうじゃ? うむ、良い飲みっぷりじゃのぉ……これで二人仲良く共犯じゃ」
「ほぉうわっ、しまったぁ! 謀った喃! 謀ってくれた喃!!」
 いつも通りのやり取りだった。
 狗星は呵呵と笑い、虎鉄は道化のように笑った。
 
「………で、どうにも浮かん顔じゃが、なにかあったかのう?」

 ピシリと、仮面が罅割れる音を聞く。
 他愛もない話の延長のように、明日の天気を問うているような何気なさで、狗星の言葉は虎鉄の仮面をいとも容易く打ち砕いていた。
 笑顔が保てなくなる。その下に隠した、素面の自分が覗きそうになる。
 それは、駄目だ。
―――笑わなくてはいけない。笑わなくてはいけない。笑わなくてはいけない。笑わなくてはいけない。
 鳳凰堂虎鉄は、笑っていなくてはならない。
 壊れかけた笑顔を咄嗟に組み直す。 
「あー………私、そんな暗い顔してますかねぇ?」
「見た目は笑っとるがの。そりゃあいかん、中身が空っぽじゃわい」 
 答えた狗星は、そもこちらを向いてもいなかった。
 茜空を見上げながら朱杯をぐいと傾けて、
「で、なにかあったのかのう?」
 空を見たまま、問いかけた。
 仮面は、あっけなく崩れ落ちた。
「………………」
 虎鉄は答えない。
 ただ、狗星に習って空を見上げた。
 空は夕暮れ、黄昏時。
 いつかのあの日と、同じ空。
「依頼に、出る事になりました」
「ほぉ……」
「人を、斬る事になりそうです」
 さやさやと、風が吹いた。
 どこか遠くで、烏が鳴いた。
 狗星はとっくに空になっているはずの杯を傾け、虎鉄はズレてもいないサングラスの位置を直した。 
「仕方ないのは、判っているんですけどねぇ……」
 そう、仕方が無い事だと判っている。
 ゴーストは倒されなければならない。倒さなければならない。それは判っているし、判っているからこそ自分はここにいるのだ。
 けれど、それでも………
「ゴーストを斬るのは、嫌かのう?」
「嫌です……できれば、斬りたくはありません」 
 それが本音だった。
 今まで誰にも零した事のない、それが虎鉄の本音であった。
 二人の間に緞帳のような沈黙が降りる。
 狗星は無言のまま空を見上げ、虎鉄はやはり無言で足元へ視線を落とした。
 また、風が吹いた。少し、冷たく感じた。
 手持ち無沙汰になり、なんとなく狗星の横顔を盗み見て、虎鉄は唐突に理解した。

―――思えば自分は、初めて出会った時から、この屈強な大男が得意ではなかった。

 別に嫌いな訳ではない。むしろ人間的には好いているし、心の底から信頼している。強く揺るがない彼の在り方には尊敬すら覚えている。いっそ憧れていると言っても過言ではないだろう。気に入らないところなどないし、むしろ好ましいところの方が多い。それでも、この男が苦手だった。何故か何故かと自問し続け、結局出なかった答えが、今はあっけないほど簡単に理解できた。
―――ああ、俺は、彼を恐れていたんだ。
 正確に言うならば、彼の笑顔が怖かった。
 穏やかに、こちらの全てを受け入れてしまいそうな深い笑みが、怖くて怖くて仕方なかった。
 自分は笑っていなければならない。先生が、笑っていろと言ったのだから、鳳凰堂・虎鉄は常に笑顔でいなければならない。だから、自分はいつも笑っていた。笑えない時には「笑顔」の仮面を被った。道化になった。そうすれば、少なくとも自分以外の人間には笑っているように見えるのだ、と学んだから。それが、今まで誰にも気付かれなかった「笑顔」という仮面が、彼には通じない気がした。静かに、優しげに微笑んでいる彼を見るたびに、見抜かれているのではないかと怖かった。見抜かれていて、その上で笑われているのではないかと、怯えていた。自分の思い込みだと判っていても、いつか彼に「お前は笑ってなどいない、その笑顔は贋物だ」と看破されるのではないかと怖がっていたのだ。
 そして、結局、その通りになった。
 自分はなんと―――無様なのだろう。
「これじゃあ、本当に道化だな」
 と、自嘲気味に笑った虎鉄の背中で、爆風に匹敵する衝撃がはじけた。
 なんだ、と疑問を浮かべるよりも幾分早く、鳳凰堂・虎鉄は、空を飛んだ。3m以上は軽く吹っ飛び、空中でグルングルンと回転し、背中から落ちた。
 それでようやく、自分の隣に座っていた大男に背中を張られたのだと理解した。
「ーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
 最初に衝撃、続いてとんでもない激痛が全身を駆け巡る。
 モロに背中から墜落してしまったせいで悲鳴すらあげられず悶絶する虎鉄に、
「おぉ、しまった! ちょいと励ましてやろうかと思ったんじゃが、ちと強く叩きすぎたわ!」
 呵呵呵、と笑う声が届いた。
―――こ、この野郎どこが「ちと」だ脊髄が粉砕したかと思ったわ!
 思わず「素」で叫び返そうとしたが、あまりの痛みで声がでなかった。というか、まず落下のショックで呼吸ができていなかった。衝撃と激痛と呼吸困難の三重苦に意識が軽く遠のく。あ、ヤバイ――と虎鉄が意識の紐を手放しかけたところで、いつの間にか近寄ってきていた狗星の指が虎鉄の体に潜り込んだ。
「っ!! あいたたたたたたたたたたたっ! 痛い痛いいったいです―――って、アレ?」
 ちょっとシャレにならない痛みに絶叫しながら飛び起きて、虎鉄はなぜか突然痛みを感じなくなっている自分に気付く。
「なんで………?」
「ふむ、快復のツボをちょい、との」 
 首を傾げる虎鉄に、至極あっさりと答える狗星。デタラメすぎた。
「ところで、じゃ」
 唖然と立ち尽くしていると、ポンと肩に手を置かれた。
 ブ厚い手だ、と虎鉄は思った。
 ゴツゴツと硬く、大きく、強い手だった。昔、頭を撫でてくれた人に似ていると思った。 
「説教をするつもりなどないし、奇麗事をいう気もさらにない。じゃがな、これだけは言わせてもらうぞぃ」
 細い目を器用に片方だけ開いて、狗星は続ける。
「背負い込むのはおぬしの勝手じゃ。悩むのも悔やむのも、おぬしの事はおぬしが決めればええ。それに関しては、わしが何かを言う権利はないし言う気もない。じゃがの、そんな空っぽの笑顔で隠されたんでは、見ている方がつらくなるわい」
 置かれた手に力が篭る。肩の骨が少し軋んだが、それでも虎鉄は目をそらさなかった。
「じゃから、つらいなら泣けばよい。苦しいのならわしらに話せ。悲しければ嘆き、楽しければ大いに笑え。涙を堪えるのも強さかも知れんが、誰かに助けを求めるのもまた―――強さじゃよ」
 言い終えると狗星はパッと手を離し、明後日の方向を向きながら額をかき始めた。………どうやら、自分が結構恥ずかしいセリフを吐いていたのだという自覚はあるようだ。微妙に顔が赤く見えるのは、夕日だけのせいだという訳でもないらしい。
 虎鉄はただ立ち尽くす。
 狗星の言葉になんと答えればいいのかが判らなかった。 
 思い出すのは、いつかの誰か。笑っていようと決めた日と、自分に名前をくれた人。
「俺は―――」
 と虎鉄が口を開いたのと、木々の向こうに気配を感じたのはまったくの同時だった。そちらに視線を向けると、程なく木立の陰から一組の男女が姿を現した。
「おや、二人ともいらしていたのですか」
「あ、おはようございます先輩!」
 隙のない歩みでやって来た青い瞳の女丈夫が軽く頭を下げ(でも視線は外さない)、赤い髪を揺らした少年剣士が活発そうな笑顔で挨拶をした。
「おうおう、そちらこそお早いのう。今日の鍛錬は森の方じゃったか」
「はい! 本当は狢先輩も一緒だったんですけど……えっと」
「成敗しました」
 オロオロと見上げる少年の言葉に、フン、と鼻息も荒く腕を組む正義の化身。その顔がほんのりと赤くなっているのは、気のせいだと思っておいたほうがいいようだ。呵呵、と愉快そうに狗星が笑い、二人もつられたように笑い出した。 
 いつも通りの光景が、そこにあった。
 ふと、狗星が虎鉄の顔を覗き込み、満足げに言った。

「うむ、ようやくいつも通り笑いおったな」

「………は?」
 思わず、自分の顔に手をやった。指先に触れた頬の感触は、たしかに、笑みの形になっている。
―――おかしい。おかしい。
 それはおかしい。自分が笑っているはずなどない。笑えているはずがない。今の自分に笑顔が浮かべられるはずがない。なぜならば、虎鉄は今、笑顔の仮面などつけてはいないからだ。仮面はさっき、目の前の大男が粉々に打ち砕いてしまった。
―――なら、どうして………俺は笑っているのだろう。 
 黒髪の少女と赤毛の少年が、不思議そうな顔で虎鉄と狗星を交互に見比べている。
 まるで、鳳凰堂・虎鉄が笑っている事など当たり前で、その事をなぜ狗星が特別に言及するのかが理解できないとでも言うかのように。 
「………ああ、そうか」
 そこで、ようやく気が付いた。
 自分は一度だってこの場所で、笑顔の仮面をつけていた事などなかったのだ、と。
 そうだ。ここに、絶技クラブにいる時の自分は、いつだって素面のままの鳳凰堂・虎鉄だった。素面のままで、自分はいつも笑っていたんじゃないか。
―――ああ、そりゃあ、見抜かれるわけだ。
 いつも通り笑っているつもりで、「いつも通り」に笑えてなどいなかったのだから、それは、不自然に見えても仕方が無い。気付いてみれば、なんとも馬鹿らしい。
 ブハーッ、と大きな溜め息をつく。
 今日は色々と珍しいことが多い日だったが、まあ、最後はいつも通りに迎えられたのだから良しとしよう。
 顔をあげた時には、いつも通りに、笑えていた。
 見上げれば、夕陽も随分傾いている。そろそろ帰る時間だ。
「そ~れじゃあ、私はそろそろ帰りますねぇ」
「うむ、気をつけての」
 虎鉄は笑い、狗星も笑った。

徒然

 まだ不思議そうに首を傾げたままの二人に頭を下げて、歩き出す。
 ある程度離れてから、ポンと手を打ち振り返る。
「あ、そうそう。狗星さ~ん、背中に隠してるお酒、美味しかったですよぉ~!」
 大声で言って、ダッシュで逃げる。
 後ろから誰かの悲鳴と誰かの怒声が聞こえた気がしたが、立ち止まらない。
 空は夕暮れ、黄昏時。
 いつかのあの日と同じ空。
 いつかの自分にはなかった場所へ別れを告げて、鳳凰堂は家路についた。



―――後日談。
 依頼から帰って道場に顔を出した虎鉄は、女丈夫から戦乙女へとジョブチェンジを果たした少女から小一時間に渡る大説教を受けることになった。正座で。  

The day before that goes out to war ………out

   
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素で行かせて貰う。
こちらもお話読ませて貰った。
まぁ、何というか、普通に絵上手すぎてこっちは唖然とするばかりだ。ギギギ、実はこっちは現在修行中でしっかり描けているのが羨ましい。色付きの文字
と余分な本音が入ったが、とりあえずこちらからもリンクをはらせて貰った。
これから先も色々やって行きたいので結社の方のバカもこっちの方からも改めて宜しく。

後日談とか色々

お酒はボッシュートです!(クワッ

成敗て…俺なにをされたのかな?(汗

疲れたー

いや~、コメントありがとうございます~。
文章書くのは久し振りだったので、ちょっとばかり時間がかかり過ぎちゃいましたねぇ~。

>氏紀さん
リンク有難う御座います~。
元々、絵の方がメインで、文章の方は嗜む程度なので~、まーこんなもんです。
氏紀さんの文は結構好きなので~、新作楽しみにしてますねぇ。

>イドさん
いや、まことに申し訳ありません~。
反省してます。またやります。(ダッシュ逃げ

>蓮さん
ここのところの結社での行動を鑑みると、自ずと答えがでるような?
今度出演していただく際にはきっと格好のいい役回りになりますって。
今回のメインはどっちかって言うと狗星さんでしたから、どうしても、ねぇ。

うむ、格好よく使って下さり、どうも有り難うですじゃ。
しかし・・・汝、最後にわしを売りおったな!?(笑)
プロフィール

神無月

Author:神無月
神無月(かんなづき)と申します。

主に株式会社トミーウォーカーのPBW『TW2:シルバーレイン』用のブログとしてなんか色々とまったりペースで徒然事が書かれています。
いぇー。

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