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虎鉄の日記:金(こがね)の虎/鉄(くろがね)の虎


――四月一日、奈良県御所市内某所。

 まだ肌寒さを残す朝の空気を切り裂いて歩く一団があった。
 戦場と化した市街を進むのは、歳若い少年少女達だった。
 ある者は決意を宿した笑顔を浮かべ、
 ある者は震える拳を懸命に握り締め、
 ある者は抑えきれぬ闘志を瞳に燃やし、
 しかし一様に、総身を緊張で満たし歩を進めていく。
 
……その中に一人、妙に軽薄に喋り続ける者がいた。
 最早言うまでもない。
 ご存知、鳳凰堂・虎鉄であった。


「いやぁ~、いいですねぇ。ゾクゾクきますねぇ。なーんて言いますか、やっぱり『戦場』ってのは依頼なんかとは違いますねぇ~。空気って言うんですかねぇ? こう、緊迫感って言うか緊張感って言うか臨場感……は違うな、まぁ、なんかグッと迫ってくるものがあって、悪くはないですねぇ~。いやはや、こんな感じはあれ以来ですよ。以前夏優さんが差し入れてくださったクッキーに冬美さんお手製のが紛れ込んでるって教えられた時以来です。いや、あの時はほんっきで怖かったですねぇ~。六枚のうち一枚が冬美さんの手作りとかで、確率1/6ってオイオイこりゃどこのロシアンルーレットだよ、って感じで戦々恐々でしたよホント。や、まぁ安全策として食べないってのも考えたんですけどねぇ~? やっぱり人の好意を無碍にしちゃいけませんし。あ、ちなみに一番最初に食べたのが冬美さんお手製で三時間ばかり生死の境を彷徨いましたよ。後で聞いた話だと心臓マジで止まってたらしいですけどねーアッハッハ。いやぁ、しかしあの人も最近腕を上げたみたいで、効果が即効性から遅効性に変わってんですよ。口に含んだくらいじゃあ大丈夫なんですが、飲み下したあたりで、こう、いきなりクるんですよー………」
「わーかった。わぁーったからちょっと黙ってくれ虎鉄」
 ベラベラと喋り続ける虎鉄に横合いから待ったが入る。
 上げた片手で虎鉄を制したのは、隣を歩く背の高い精悍な少年だった。
 虎鉄も背の高い方だが、彼は虎鉄よりもまだ高い。加えて衣服の上からでも判るほどに鍛えられた筋肉が、彼の見た目を一回りも二回りも大きく見せている。虎鉄が視線を向けると、灰色の瞳が呆れたように自分を見下ろしていた。
 広い肩で風を切って歩く少年――彼の名を、天城・剛一という。
「おやぁ? お気に触っちゃいましたかぁ剛一さん?」
「いや、俺は別に構わねーんだがな。ただ、ここは今――戦場だからよ」
 そう言って、剛一は辺りを視線だけで示してみせる。
 彼らが今歩いているのは何の変哲もないごく普通の住宅街だ。
 爆撃を受ける事もない。
 地雷が仕掛けられている訳でもない。
 銃火に晒される事もない。
 それでも、今この場所は――戦場なのだ。
「や、たしかにそれもそうですねぇ~。しーつれいしました~」
 ヘラヘラと、殊更に緊張感のない声で虎鉄は答える。
 それに剛一は怒るでもなく、ああ、と頷くだけに留めた。
 剛一は気付いていた。
 普段から饒舌なこの少年が、今日に限って輪をかけて饒舌になっている理由に。
 いかにも飄々と、おどけた風に振舞っている虎鉄の手。
 それが、かすかに震えている事に。
 だから、虎鉄の度を過ぎたおどけ方も仕方ない事だと思ったのだ。
 こいつはきっと、恐れている。
 死ぬ事を。戦って死ぬ事を、恐れている。
 いや、ここにる誰もがきっと、本当は怖いのだ。
 この場所は――戦場なのだから。
 怖くないはずが、ない。
 それでも戦わなくてはならないから。
 逃げ出してしまわぬよう、精一杯自分を保とうとしているのだろう。
 そんな事を考えて、ふと顔を上げれば、虎鉄はいつの間にか随分と前の方を歩いていた。
 剛一が遅れている事にさえ気付いていないのだろう。
 先を行く虎鉄はまだなにやらブツブツと喋り続けているようだった。
――さすがに、ヤバイかも知れねえな。
 生きるの死ぬの以前に、まず戦えるのかどうかすら危うい。
 大股で、先行する虎鉄に追いつく。
「おい、ちょっと待て虎鉄……」
 最悪、こいつを下がらせる必要があるかもしれない。
 その時は自分が二人分の働きをしようと決めて、剛一は虎鉄に声をかけ
――その表情に息を呑んだ。

 虎鉄は、嗤っていた。

 楽しくて愉しくて仕方がないとでも言うように。
「ん? どうかしましたかねぇ剛一さん?」
 そこでようやく気付いたのか、虎鉄が剛一へ顔を向けた。
 その顔にはまだ歪んだ笑いが張り付いている。
 剛一は一瞬、本当に一瞬だけ言葉に詰まった。
 恐れた訳ではない。
 ただ、あまりに予想外な虎鉄の反応に面食らってしまったのだ。
 けれどそれは本当に一瞬だけの事。
「虎鉄――楽しんでるか?」
 剛一は薄い笑みを口元に乗せると、そう問うた。
 楽しいですよ、と虎鉄は答える。
 薄ら寒くなりそうな笑みを浮かべたままで。
「なにせ本当に久しぶりに――私は『俺』に戻れるんだからな」
 続けた言葉に、そうか、と剛一は頷く。
 ただそれだけで十分だった。
 虎鉄の言葉は不可解だったが、その真意を問おうとも思わなかった。
 だって、そうだろう?
 戦場で肩を並べる相棒が笑っているのだ。 
 ならば、それ以上に何が必要だと言うのだろうか。
「上等だ」
 剛一の笑みが一層深くなる。
 それと同時、団体の前の方が俄かに騒がしくなった。
 二人同時に視線を走らせる。
 見れば、彼らが進む通りの奥に一匹の巨大な蜘蛛がいた。
 続いて一匹。さらにその後ろからもう一匹と現れる。
 誰かが叫んだ。
『敵』だ、と。
 少年達の間に緊張が走る。 
 その間にも蜘蛛の群は増え続け、ついには路地を埋め尽くした。
 まるで悪夢。
 日常の象徴のような町並みは一瞬にして八つ足の異形に蹂躙された。
 
「どうやら、来たみてぇだぜ剛一」
「ああ、来やがったな虎鉄」 
 一団の中程、ついに姿を現した敵に二人の少年は獰猛な牙を抜き放った。
「イグニッション!」
 懐に収めたイグニッションカードが光を放つ。
 その光が消えた時、剛一の右手には鍔を持たぬ大太刀が握られていた。
 大太刀、その銘を『姫鶴一文字』。
 六尺を優に超える斬馬刀。
 かつてこの国全土が戦場であった頃、軍馬を斬殺するために生み出された禁じ手破りの忌み刀。
 それが――天城・剛一の牙だ。
「イグニッション!」
 コートのポケットに放り込まれたイグニッションカードが光を放つ。
 その光が消えた時、虎鉄の右手には黒塗りの刀身を持つ太刀が握られていた。
 黒太刀、その銘を鳳刀【綾女】。
 その刀をさらに闇が包み込む。
 命を喰らう黒影に柄頭から切先、鍔までもを染め上げられた大太刀。幾度も戦場を共にした剣。
 それが――鳳凰堂・虎鉄の牙だ。
「さぁて、征くかぁ金の虎」


「応よ、鉄の虎」



 堅く握った拳と拳を打ち合わせ、二頭の虎は戦場へと駆け出した。








――後日談。
「お前、やっぱ下がってた方が良かったんじゃねーの?」
「あ、やっぱり?」
 病院のベッドでマミーと化した虎鉄と、
 お見舞いに来た傷一つ無くピンピンしている剛一の会話であった。

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プロポーズ大作戦の来週のあるすじ

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こんばんは~…って感じで俺がやって来ましたよw
恐らく、周りに居たであろう名も無き人達はシリアスな雰囲気を撒き散らかしてたんだろうけど、虎鉄兄さんの周りだけは、戦闘が始まるまでシリアスとはかなり離れた所に居るように思えたのがまた面白かったな~w

まぁ、ソレは置いといて……色々とあったようですが、土蜘蛛戦争お疲れ様でした。
ところで、いっつも思うのですが…相変わらず絵が上手いですねw
本文読む前に、今回の絵の虎鉄兄さんを見て一瞬…『コレ、何処のチンピ……あぁ、グラサンしてるから虎鉄兄さんか(苦笑)』となってしまうぐらいの迫力w
そんなこんなで、長々と書きましたが面白かったですw
では、帰りますねw

おう、顔出しが遅れちまってすまねぇな。
天城剛一、此処に参上ってな。

あの時はホント喋ってたよな。
止めなけりゃ延々と話し続けてたんじゃねーかって程のマシンガントークだったな(苦笑)
まぁ、前々からの約束だった肩並べて戦うってのは成就されたワケだ。
自分の背中を守る必要が殆ど無いってのは有難いモンだったぜ?
今回が双虎の初共闘だったが、中々楽しかったぜ?
またどっかの戦場で一緒したいモンだな!

(そして最後の後日談で背後が大笑いしたのは此処だけの秘密な!)
プロフィール

神無月

Author:神無月
神無月(かんなづき)と申します。

主に株式会社トミーウォーカーのPBW『TW2:シルバーレイン』用のブログとしてなんか色々とまったりペースで徒然事が書かれています。
いぇー。

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