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――語り


 夜。
 自室のベッドの上に体を投げ出し、少年は何をするでもなく天井を見上げていた。
 窓は開け放たれている。
 天井のライトは消えている。
 時折吹き込んでくる風に、白いカーテンがふらりと揺れた。
 春先とはいえ夜の空気はまだ少しばかり冷たい。
 冬の名残を宿した風に、少年は我知らず目を細めた。


 静かな夜だった。
 夜は、いつだって静かで優しい。
 なのに夜の色は、見るものに不安を抱かせる。
 夜の色は、拒絶の色だ。
 一寸先すら見通せない暗黒の中で、人は自分が拒絶されている事を知る。自分が異物であるという事実を悟る。夜は、闇は、人を受け入れてはくれない。その懐に優しく包み込み、世界から切り離す。それだけだ。包み込んではくれても、受け入れてはくれない。夜は人を孤独にする。本物の暗闇の中では、誰だって独りぼっちだ。
 だから、人は夜を恐れる。
 自分が独りぼっちだと思いたくないから。
 だから、少年は夜を愛する。
 この闇の中でなら、独りぼっちなのは自分だけではないから。
 ………。
 胡乱な思考に沈んでいた意識を浮上させ、少年は起き上がる。
 上半身だけを起こして、ベッドサイドのテーブルに置いてあった紙の束を取り上げた。
 軽い雑誌ほどの厚みを持つ冊子。
 それは、葛城山殲滅戦の報告書だった。
 もう何度も目を通したそれを手慰み程度に開き、文面に目を落とす。
 土蜘蛛。
『敵』であった者達。
 死者。
『仲間』であった人達。
 随分と死んだな、と思う。それほど死ななかったな、とも思う。
 どちらにせよ、紙の上の数字に過ぎない。手の中にも、記憶にも残らない命に感慨を抱くには、自分はもう死というものに慣れすぎてしまった。悼む資格など、とうの昔に失ってしまった。
 それでも……彼らの冥福を祈るくらいは、許されるんじゃあないだろうか。
 どちらもが、誰かを護るために戦って。
 どちらもが、誰かを護るために死んだ。
 どちらに価値があったとか、どちらが正しかったとか、そんな事は考えない。多分、どちらも価値があり、どちらも正しかったのだろう。それなら、考えるだけ無駄だから。そんなものは神様あたりが決めていればいい。自分には関係の無い事だ。
 自分が何を想ったか。
 正しいとすればそれだけで、価値があるのも、きっとそれだけだ。
 そこで、ふと疑問に思う。
 だったら、『自分』は何を想うのだろうか。
「――馬鹿馬鹿しい」
 噛み潰すように、吐き捨てた。
 想う事など何も無い。
『自分』など、一番最初に捨ててしまったのだから。
 だから、鳳凰堂・虎鉄として想う。

 自分の知る人達が無事だった――それが嬉しい。
 
 それでいい。
 鳳凰堂・虎鉄の想いがあれば、それだけでいい。
『自分』なんて必要ない。
 そんなものは夜の闇の中にでも閉じ込めておけばいい。
 
 虎鉄はベッドから立ち上がると、部屋の隅に置かれた、洋服を放り込んであるダンボールの底から銀誓館学園の制服を引っ張り出した。
 結局、入学式から数日くらいしか着ていなかった制服。
 新品同然のそれは、夜を写したような色をしていた。
 夜の色は、拒絶の色だ。
 他を受け入れず、拒み、排し、独りぼっちにしてしまう。
 独りぼっちだと自覚させてしまう。
 討ち滅ぼされた彼らは、彼女らは、果たして何を想ったのだろうか。
 手を取り合うこともできず、
 分かり合う機会すら持てず、
 ただただ拒絶された彼らは、何を想って死んだのだろうか。
「考えても仕方ない、ですかねぇ」
 そう、考えたところで意味は無い。
 敵ならば、殺すべきだ。それが正しい。
 それが鳳凰堂・虎鉄の在り方だった。
 ならば、自分にはそれ以外などありえない。それだけが、絶対の正解だ。
 制服をもう一度ダンボールの底にしまい、虎鉄はベッドに倒れこんだ。
 目を閉じれば、夜が体を包み込む。
 何も見えない。
 独りぼっちだ。
 拒絶の色に包まれて、それでも……と虎鉄は思う。
 それでも、もしも、ひょっとして。
 そもそも敵でなかったら、
「友達になれたり、したのかなぁ?」
 問いかけに答える者は無い。
 孤独な夜の真ん中で、少年は独り呟いた。

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非公開コメント

既に一般人に犠牲が出ていた以上

滅ぼすのが人間の能力者としての使命か、
と比留間は考えて行動していました。

今回の結果が良かったのか、悪かったのか、
それは追々わかっていく事なんでしょうねえ。

生き残った者の責務

【もしも】と言う言葉は、非常に魅力的だ。
だけど、過去は変らない。

土蜘蛛は一般人を手に掛け、
俺達はその土蜘蛛を危険因子とみなし…土蜘蛛殲滅に臨んだ。

過ぎ去った日々から、最善と次善と最悪を学び、次に活かそう。
それが、戦い、生き残った者の責務だと、俺は思うよ。
プロフィール

神無月

Author:神無月
神無月(かんなづき)と申します。

主に株式会社トミーウォーカーのPBW『TW2:シルバーレイン』用のブログとしてなんか色々とまったりペースで徒然事が書かれています。
いぇー。

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