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虎鉄の日記:戦争前夜~闇夜の烏とラブレター~


――三月三十一日深夜。

 奈良県は御所市内の某所、
 眠りの静寂に落ちた町の片隅に、風を打つ音が一つ生まれた。

 寂れた小さな公園。
 一つっきりの街灯が照らすベンチに、一羽の烏が舞い降りた。
 夜の闇を切り取ったかのように艶やかな黒い羽を畳み、烏はぐるり、と公園を見回した。
 ぽつぽつと点在する遊具はどれも古ぼけ、錆付いている。
 否、古ぼけ錆付いているのは遊具だけではなく、公園そのものだ。
 こんな町の中にありながら、忘れ去られた廃墟のよう。
 たとえ昼間でも利用する者は少ないだろう公園の残骸に烏は視線を滑らせる。
 人の影はない。猫の仔一匹見当たらない。
 勿論、蜘蛛の仔の姿も見当たらない。
 つまらなさげにそれだけを確認すると、烏は羽を広げた。
 夜を滑るようにして烏が降り立ったのは、公園の端、申し訳程度の茂みと数本の木が植えられた小さなスペースだった。
 バサバサと羽を羽撃かせた烏は、星明りも照らさぬ木々の影を見上げる。
 するとその中から、
「お静かにお願いしますよぉクロスケさん?」
 妙に軽薄な声がかけられた。
 その声に応えるように、クロスケと呼ばれた烏は再び地を蹴る。
 次に烏が降り立ったのは、茂みの影、木の幹に背を預けて座り込む少年の頭の上だった。
「一応は潜伏中ですからねぇ。見つかると面倒ですし」
 低く抑えた声に、少年の頭上でクロスケはフイッ、と顔を背ける。
――お前が見つかろうがどうなろうが知った事か。
 とでも言いたげな仕草だった。
 その割にはこの烏、公園に降り立った時にしっかりと周囲を確認していたりする。少年もそれを知っているから、素直でない『彼』の態度にいつも浮かべている笑みをついつい深くしてしまう。それが気に食わなかったらしい。『彼』はグイッ、と頭を下げると、その鋭い嘴を少年の目の前に差し出した。


「わぉ、これは失礼しましたー」
 途端に両手を小さくあげて「降参」のポーズを取る少年。
 この体勢からならば、少年がどんな抵抗をするより先に『彼』の嘴は少年の目でも鼻でも抉り落とす事ができるのである。いわばこの状態は、
――本気で怒っているから謝れ。
 という『彼』のメッセージ……と言うか警告なのだ。
 それを身をもって知っているから、少年は『彼』がこの体勢を取るとすぐに謝る事にしている。
 そんな少年の反応に満足したのかクロスケは頭を上げると、少年の頭から肩へ、肩から腕へ、腕から脚へと飛び降りていき、脚から地面へと着陸したところで少年の方を振り向いた。
――それで、用件は?
 と問うているような視線だった。
 それに応えて、少年は懐から一通の封筒を取り出す。
 何の色気もない事務的な茶色い封筒。
 差し出されたそれを、クロスケは嘴で銜え取った。



 クロスケは時折、この少年のメッセンジャーを勤める事がある。
 最初の頃はちょっとした気まぐれから、定住先というものを持たない少年への手紙や連絡を届けてやっていただけだった。それがいつの頃からか、気が付けば少年の特に個人的な手紙を運ぶ事がクロスケの役割のようになっていたのだ。
 
「申し訳ないんですが、その手紙届けるの明日の夜まで待っていただけません?」
 早速教えられた相手の元へと飛び立とうとしていたクロスケを、少年はそう言って引き止めた。
 それに、クロスケは少し驚く。
 少年がそんな条件をつけてきたのは初めての事だったからだ。
――何故だ?
 とでも言いたげに振り返ったクロスケに、少年は笑った。
 いつも浮かべている軽薄な笑みではなく、どこか歪なツクリモノめいた笑みで。
「それは……出しちゃいけない手紙なんです。と言うより、私には出す資格のないものなんです。本当は墓の下まで持って行っても良かったんですが、なんとなく、本当になんとなく形に残しておきたくなったから書いた……ただそれだけのものなんですよ。っつーか、遺書? うん、まぁそんなものです。けどホラ、明日は戦争ですし、持って行って死んでから見つかっちゃったらアレじゃあないですか? ですから……」
 堰を切ったように語る少年。
 それは、韜晦だ。この少年には笑顔の裏に本心を隠す癖がある。
 その悪い癖が、その時の笑顔が、クロスケは堪らなく大嫌いだった。
 だから、最後まで言わせる気はなかった。
「明日の夜、私が帰ってこなかったらクロスケさんに処分しちゃって欲しいんですよ―――ッッ!?」
 ゴスン、と硬い音がした。
 ロケットよろしく飛び上がったクロスケの嘴が、少年の額を抉った音だった。
 流石に潜伏中だということを忘れはしなかったらしい、漏れ出しそうになる苦悶の声を抑えて、ついでにダクダクと出血する額を両手で押さえて静かに悶絶する少年。
 それを冷ややかに見下ろすクロスケの目が語っていた。
――本音を吐け。(さもなきゃ抉る)
 と。
「ほ、本音ってなんのこ……」
 ゴス。
「ちょ……っ、痛っ、待っ………!」
 ゴスゴス。
「ギブ、判りました話します言いますから――」
 ゴスゴスゴス。
 都合六発の突撃を受けて、少年はようやく「降参」した。
 見下ろすクロスケの視線は相変わらず冷たい。
 人間であればフン、と鼻の一つでも鳴らしていたかもしれない。
 その代わり、という訳でもないのだろうが、首の動きだけで先を促す。
 今も額から流血し続ける少年は観念したように、溜め息に言葉を乗せた。
「見られんのがこっ恥ずかしいんだよ……」
……ラブレターなんて、他人に見せるもんじゃあねぇ。
 根本的などこかを間違った呟きを洩らして起き上がると、少年はガリガリと頭を掻いた。
 どうやら照れているらしい。
 クロスケはそんな少年をじっと、睨み付けるような視線で見上げた。
 その視線を少年は真正面から受け止める。
 そうして不意に、クロスケは少年に背を向けた。
 夜色の羽を広げ、風を打って飛び上がる。
 夜闇を映したシルエットは、たちまちのうちに夜空に溶けて見えなくなった。
 それを呆けたように見送って、少年はパタリと地面に倒れこんだ。
「ひょっとして、励まされちゃいましたか私」
 やれやれ、とまた溜め息をつく。
 思い出すのは飛び立つ寸前、友人が残した一瞥の意味。
――それなら、必ず生きて取りに来い。
「あーぁ、こりゃあ意地でも死ねねぇわ」
 少年の呟きは春の夜風に吹かれて消える。
 無限に続く星空で、烏が一羽舞っていた。  




――明けて翌日。

 重傷を負った少年は、命に別状は無かったがすぐさま野戦病院送りになり、なんとか動けるようになった時にはとっくに戦争が終わっていた。そのままなし崩し的に温泉に連れて行かれ、やんごとなき事情から溺死しかけた少年が寮のベッドで目を覚ましたのは、さらに翌日の朝――四月二日の事であった。
「あ゛ーーーッ! クロスケさん忘れてたーーーッッッ!!!」

 所変わって奈良県は御所市内の某所。
 そんな事情など知る由もない一羽の烏が、“今は亡き”友人の想いを銜えて飛び立った。
 その行く先は、誰のみが知る?

 続く………のカモシレナイ
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やれやれ

今頃蜘蛛戦争ネタかよ!!!
とツッコムなかれ。
本来は昨日の時点で更新していたはずが、
バックスペースの呪いによって一度消えてしまったのを書き直したのであります。

さてさて、それはともかく虎鉄君、思わぬアクシデントという名の背後の悪意によって追い詰められております。そろそろ色々と清算せにゃあいかんのですよ。がんばれ虎鉄! 過去編はどーしたとか言わないで虎鉄!! 

相変わらずのお目汚し、失礼致しましたー。

本当に、お疲れ様でした…♪

ここまで遅れちゃったのは、もしかしたら…
私が、週刊戦争黙示録関係で散々引っ張りまわしたかも知れない。
と、自惚れてみてます(コラ

今回は、凄く楽しそうな展開ですね!(酷

それは冗談ですが(苦笑)
どうか、その清算が、鳳凰堂さんにより良き結果となりますよう…(ぺこり)

ほほう、青春ですね~

誰に向かったのかは今はあえて問いますまい。
ただ烏の飛び立ったその先に、良き日々が続く事を祈るのみ、と。
色々頑張れ……!(笑)

あぁ?ラブコメフラグか!?

壁|--)<……
壁|´_`) <………
壁|O_O)。o(しっとマスクの準備をしておこうかなぁ

という冗談は置いておいて。
クロスケは果たして虎鉄の「ロブ・レイター(後ほど強奪//色々違う)」を届けることが出来るのかっ!!
それとも、届く前に虎鉄が回収するのか!?
待つ、次回!!

プロフィール

神無月

Author:神無月
神無月(かんなづき)と申します。

主に株式会社トミーウォーカーのPBW『TW2:シルバーレイン』用のブログとしてなんか色々とまったりペースで徒然事が書かれています。
いぇー。

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