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虎鉄語:誰も知らない話


 雪に閉ざされた村で、

 誰もいない闇の底で、

 銀色の月が咲く夜に、

 真赤な夕陽の黄昏に、


―――少年は生まれた。


prologue/ birth ― in the snowed village.


 雪に閉ざされた村で、男は生まれた。
 東北の日本海側に位置する小さな、冬には全てが雪に覆われてしまうような村。
 毎日一時間ほどバスに揺られて近くの町まで行かなければ、学校にも通えないような田舎の村。
 緩やかに年老いて、穏やかに朽ちていくのを待つような、静かで寂しい村だった。
 男の生まれた家は、古くはその一帯の地主をしていた名家だったという。 
 だが、それも昔の話でしかなかった。
 時代を超えて遺されていたのは、幾つかの山を含めた土地と、不必要に広い屋敷だけ。
 貧しさに喘ぐ事も無いが、働かなければ食べていけない程度のごく普通の生活。
 それが、男の世界だった。
 若い頃には、外の世界に憧れた事もあった。
 このつまらないちっぽけな村を飛び出して、大きな世界で生きてみたいと願った事もあった。
 けれど、結局男はその世界で生きていった。 
 たぶん、どこかで諦めていたのだろう。或いは知っていたのかもしれない。
 祖父がそうであったように、父がそうであったように。
 自分も、この世界で朽ちていくしかないのだ、と。
 そんな感情も、月日と共に薄れていく。
 男はそのまま何事も無く歳を重ね、当たり前のように父の跡を継ぎ、そして彼女と出会った。
 仕事の上で知り合った友人の友人の友人の、その妹。
 縁と言うにはあまりに心許ない繋がりで出会った彼女に、男は心奪われた。
 色素が薄いらしく、涅色をした長い髪。
 触れれば溶けてしまいそうな、線の細い白い肌。
 手の平に落ちた粉雪のように儚げな、八も歳の離れた彼女に、男は恋をした。
 或いは、どこか浮世離れした彼女の雰囲気に、いつか遠い日に抱いた外の世界への憧れを見たのかも知れない。
 けれど、それも些事でしかない。
 男はたしかに彼女を愛し、彼女もまた男の愛に応えのだから。
 そうして、男と彼女は家族になった。
 村の、男の屋敷で、二人は日々を紡いでいった。
 それでも、一度は村を出て町の方へ居を移そうかとも考えた。
 生まれつき体が弱いという彼女には、村の冬の寒さは辛いだろうと思ったからだ。
 そうしなかったのは、彼女がそれを拒んだからだ。

――この家は、あなたの家族がずっとずっと守って、過ごしてきた場所だから。
――私もこの家を守って、この家で生きていきたいの。
――だって、私はもう、あなたの家族なのですもの。

 幸せな日々だったと、男はその生活を思い返す度にそう思う。
 彼女がいた。ただそれだけで充分だった。
 けれど、どれだけ幸せな日々にだって、いつかは終わりが訪れる。
 それは彼女が妻となって数年目の、ある冬の日の事だった。
 仕事から帰ってきた男に、彼女は静かに告げた。

――子供が、あなたの子供ができました。

 男はそれを聞いた時、咄嗟に彼女にこう言った。
 頼むから生んでくれるな、と。
 体の丈夫でない彼女が出産に耐えられるとは、男には到底思えなかったから。   
 男にとって、彼女は全てだった。男の幸せの全てが、彼女と共にあった。
 彼女を失うなど、男には耐えられることではなかった。
 後生だから生んでくれるな、私の傍に居ておくれ、と懇願する男に、彼女は言った。
 自分の体が出産の負荷に耐えられるかどうかなど、彼女自身が誰よりも知っていた。
 それでも彼女は、笑って言ったのだ。

――生ませてください。
  あなたに愛された私が、この世界に生きた証を。

 その言葉に、男は幸せの終わりを聞いた。
 そして、季節は巡る。
 春が終わり、夏が過ぎ、秋が瞬き、また冬が訪れて。
 雪に閉ざされた小さな村で。
 小さな命が、生まれた。
 
 雪が降っていた。
 冷たい雪が、静かに夜を埋めていた。
 男は、泣いていた。
 生まれたばかりの赤ん坊を抱いて、
 白い布団に横たわり、細い呼吸を繰り返す彼女の傍に膝を突き、
 いかないでくれ、置いていかないでおくれ、と、子供のように泣いていた。 
 男と彼女をとりまくように、産婆を務めた村の老婆や、診療所の医師が二人を見守っていた。
 無理を押してまで自宅での出産を望んだのは彼女だった。
 誰よりも自分の弱さを知っていた彼女だから、或いは、最後はこの家で迎えたいと思ったのかも知れない。
 彼女の顔は、お産の後とは思えないほどに白かった。
 もう血の通っていない、終わり行く命の色だった。
 男は泣いた。
 流した涙が彼女を引き止めているのだと信じているかのような、そんな泣き方だった。
 いかないでくれ、いかないでおくれ、と繰り返す男の頬を、不意に白い手が撫でた。
 愕然と目を見開いた男に、彼女は言った。
 もう息をする事さえ苦しいのだろうに、気遣うように男の頬を、次に我が子の頭を撫でて。
 彼女は言った。

――あなた、どうか泣かないで下さい。
――私はあなたに、充分に愛してもらいました。
――あなたに愛してもらえて、私は本当に幸せでした。
――あなたに愛された私の世界は、本当に幸せでした。
――だから、私はこの子にも、この幸せな世界を見せてあげたかった。
――あなたからもらった命に、この幸せな世界を教えてあげたかった。
――この子の世界は、きっと、私の世界よりずっと幸せなはずだから。
――あなたと私に愛されたこの子の世界は、きっと幸せなはずだから。

――だから、あなた。
  どうかこの子を愛してあげて。    
 
――私を愛してくれたように、この子を愛してあげてください。
――私の、最後のわがままだから。
――お願いします、あなた。

 優しく笑って、そう言った。
 それは、男が今までに見たなによりも美しい笑顔だった。
 男は、
 片手に小さな命を抱いて、片手に彼女の手を握って、
 ボロボロと涙をこぼしながら、それでも、笑うことができた。
「ああ、約束するよ。この子は、きっと私が」
 幸せにしてみせるから――そう言い切る前に、彼女は笑った。
 続きなど聞かなくても、ただそれだけ充分だという顔だった。
 彼女は幸せそうに、長く息を吸って、 
 
――ああ、安心しました。

 そして静かに目蓋を閉じて、その生涯を終えた。 
 

 それが、少年の始まり。
 少年が生まれた、ある雪の日の話。 
 最早覚えている者もない、もう終わってしまった話である。 

 birth ― in the snowed village end /next to 『birth _ the bottom of the dark.』

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う゛ぁー

ようやく書くことができました。
鳳凰堂・虎鉄というキャラクターの過去話です。
過去どころか親の出生にまで遡るあたり私の阿呆さ加減が滲み出ておりますが、
そこはどうか御寛恕下さい。
さて、これからおそらく四回分を使って虎鉄の過去を語ろうと思っているのですが、
いかんせん寮ともクラブともまったく関係の話なので、おそらく読んでいる方は
大変に退屈だろうと思いますが(そもそも読んで貰えてるのかという話ですが)、
暇潰し程度にお付き合い戴けましたら幸いです。
では、ここまで読んで戴きまことにありがとうございました。 orz

必須でしょう!

キャラクターのバックストーリーを語るのはキャラクターを知る上でとても大事なことだねぇ。
親の出生まで遡るのは更に背景が分かって尚よろしい(微笑//何様)

さて、では静かに閲覧しようか。
鳳凰堂虎鉄の誕生から、そして今日までの物語を────


あ、長くなりそうだから紅茶を淹れておくか(マテ)

遅ればせながら感想を書かせていただきますね(^_^)
出生の秘密…なんだかドラマのような、映画のような出生を経て鳳凰堂さんは生まれたのですね。感動しました(T_T)
ボクも触発されて出生の秘密でも書きそうな勢いで、感動しました♪

わっほ~い(ぉ

いやぁ~、過去の詮索せずに過去を聞けるなんて良いじゃないか♪♪(←ぉぃ
私の出生は……みっ、見たいのか??(何
まぁ、見たいなら詳しく書くぞ♪♪(ぉ

ナツは紅茶くれ~い♪♪
そんな訳で、面白かった。また次を楽しみにしてるよ♪♪
プロフィール

神無月

Author:神無月
神無月(かんなづき)と申します。

主に株式会社トミーウォーカーのPBW『TW2:シルバーレイン』用のブログとしてなんか色々とまったりペースで徒然事が書かれています。
いぇー。

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