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謹賀新年目の正月、の巻


 ぴちゃり、

 薄暗い部屋に微かな水音が響いた。
 人が二人やっと並んで立てるくらいの狭い小部屋は完全に締め切られていて、その空気の流れのまったく無い密室にはなにかの薬品のものらしい何とも言えない臭いが澱むように満ち満ちていた。
 その天井から吊るされた裸電球の心許ない光に照らされて、人影が一つ、立っている。
 部屋を満たす薬品の臭いと緞帳のような闇の中から、ぼうっ、と浮かび上がるようにして立っているその影は、どうやら部屋の奥、流し台になっている場所を覗き込んでいるらしい。

 ぴちゃり、

 ぬるりと長い人影は、いっそ偏執的とさえ言えるほど熱心に流しを覗き込んでいる。
 否、覗き込んでいるだけではない。
 薄明かりに縁取られた人影は流しに手を伸ばし、何らかの作業をしているようだった。
 どうやら男であるらしい人影が腕を動かすたびに、ぴちゃり、ぴちゃりと水音が跳ねた。
 白い手袋に包まれた男の手の中、銀色のピンセットが冷たい光を受けて、てらてらといやらしげに、どこか生物を思わせる輝きを放っている。
 それは、その部屋の薄暗さも相まって、なにか不安を掻き立てずにはいられない光景だった。
 薄闇と薬品の臭いに閉ざされた密室で、男が、笑った。 

 ぴちゃり、

 ぴちゃり、

 ぴちゃり、

 ………………
 ………………………
 …………………………………

 
 

「で~きま~したぁ~♪」
 ここまでのシリアスなノリを根底からブッ飛ばす脳天気と太平楽の極みこの上ない笑顔で鳳凰堂・虎鉄は流しへと向けていた顔を上げると、現像液に漬けていた写真をピンセットでつまみあげた。
「さってっと、これで先日の談話室で撮った写真は全部現像できましたねぇ~」
 頭上を渡る紐から下がった洗濯バサミに写真を挟んで、大きく伸びをする。
 ここは寮の一室、虎鉄が寮長であるヒカルさんには内緒で勝手に作った暗室の中である。
 虎鉄は日記に挟むための写真を、ここで自分で現像しているのであった。
「ふむ。さ~て、上手く現像できてますかねぇ~」
 吊るしてあった写真の中から一枚を適当に手に取り、眺める。
 まだうっすらと現像液の湿り気を残した写真には、ウェンディングドレスに身を包み、スーツを着た自分の兄(スケルトン)と腕を組んで微笑む可憐な少女が写っていた。
 誰あろう、その少女こそ虎鉄の所属する結社『寮つき手芸部』の寮長、月宮ヒカルであった。



 これは先日、寮の談話室で虎鉄の持ち込んだドレスをヒカルさんに着てもらった時の写真である。
 まぁ、その際にもまた一悶着あったりしたのだが。
 虎鉄は写真を眺めつつ、そんな出来事の一つ一つを思い出して笑みを浮かべた。
 この学園で過ごす日常の全てが、虎鉄にとってはかけがえの無い思い出である。
 そんな宝石のように輝かしい思い出の一つ一つを、自分で撮った写真を眺めながら思い起こすのが、この軽佻浮薄なお調子者を装う少年の、誰も知らない密かな趣味だった。
「………………」
 ひとしきり思い出をなぞり返した虎鉄は満足そうに一息つくと、写真を大事そうに元通り挟みなおして、また一つ伸びをした。
「さて、後は乾燥を待つだけですし……ん、ちょ~いと談話室にでも顔を出してきますかねぇ」
 また今日も、なにか楽しいことがあるかも知れませんし。
 いつも通りの軽い笑顔を浮かべると、虎鉄は暗室を後にした。
 向かう先は談話室。
 彼にとっての、守るべき家族のもとへ。
 ニヤニヤと軽薄に笑いながら、鳳凰堂・虎鉄は歩き出した。  
 
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神無月

Author:神無月
神無月(かんなづき)と申します。

主に株式会社トミーウォーカーのPBW『TW2:シルバーレイン』用のブログとしてなんか色々とまったりペースで徒然事が書かれています。
いぇー。

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