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ヲトメニボクハコイシテル!?

 
 夕日が差し込む部屋に一人。
 ガラクタが山積みになった自室の真ん中、唯一人が座り込めるスペースに胡坐をかいて、鳳凰堂・虎鉄は悩んでいた。
 うーんと頭をひねる虎鉄の目の前には、なにやら一組の白いものが置かれている。
 そう、それこそはあらゆる女性の願望を叶え、一部男性の希望を打ち砕くもの。
 結社『絶技クラブ』の無人販売所にて結実した最後の幻想の一欠片。
 故にその名を――
 胸部専用強化装甲“ボリューム飛鳥”!
 そして追加装甲『対衝撃吸収剤』“擬似胸部脂肪”!

――どう見ても胸パットです。
     本当にありがとうございました。

「実際、どうしたものですかねぇ~」
 見た目にはただの女性用下着にしか見えないそれを摘みあげる。
 プラーンと揺れる白い布+α。
 これを絶技クラブの結社ショップで見かけた時は腹筋が捩れて断裂するんじゃないかと思うくらいに笑い転げたものだが………ついついノリで購入してしまったそれらの扱いに、虎鉄は完全に行き詰ってしまっていた。
 そう、こんなもの持っていたって、使うアテがまったくない。
 鳳凰堂・虎鉄は男なのだ。
 ぶっちゃけ胸パットなんて必要ねーのである。
 ともあれ、部屋に放り出しておいて誰かに見られてしまうのもあまりよろしくないが、せっかく買ったものを使わないからと言って捨ててしまうのも忍びない。じゃあいっそのこと誰かにプレゼントしちゃおうか、とも考えたが、贈り主が自分だとバレた時のことを考えるとそれも怖い。
 プラプラとブランコのように揺れる胸部装甲を眺めながら、虎鉄は重い溜息をついた。
 一人っきりの部屋で女性用下着をガン見する男子高校生……傍目にはずいぶんとヤバい風に見えるんだろーなぁ、と考えて苦笑する。そもそもこの部屋には自分しかいないのだから他人の目など気にする必要は無いのである。そう、だから自分の背後、ベッドの下から感じる「いいなー、楽しそうだなー、それほしいなー」と言わんばかりの熱視線などは気のせいなのである。ベッドの下の人などいねーのである。気付いている事に気付かれてしまうとまたぞろ引きずり込まれかねないので何も聞こえねーし見えねーのである。
「いやぁ、それにしてもいい仕事してますねぇ~」
 誤魔化すように声にしてみたが………成る程、よくよく見てみればこの強化装甲は確かによく出来ている。
 ふにふにと触れてみれば、その感触たるや人肌そのもの。それどころか手の平に感じる重みや指の動きに応じて形を変えるその柔らかさにいたるまで、本物のそれと比べても遜色ないというあまりにも無駄すぎるその完成度。触っているだけでこれを造った人物の愛が感じられる。職人技と呼んでいいだろう。
 まるで、本物のようなその手触りに―――
「あ………マズ」
――どくり、と心臓が鳴いた。
「あ………は、あ……あ」
 知らず、息が荒れていた。
 ぜぇはぁと、自分の呼吸が耳障り。
 なんて無様、まるで飢えたケダモノじゃないかと自分を哂う。
「はぁ………はあはぁ……はあ、はぁ……は」
 視界が、それ以外を捉えなくなる。
 眼球を貫かれたように、視線がそれに釘付けになる。
 ごくり、と溜まった唾を飲み込んだ。
 涎くらいは垂らしているかも知れないと、どこか冷静な部分で自覚する。 
 頭蓋の奥で、理性がヤメロと絶叫した。
 やめろ、人として生きていたいのならば。
―――けど………こんな物を目の前にしていては……
 くらくらする。
 ぐらぐらする。
 ああ―――もう、我慢できない!

「うわー! ネタ師の血が騒ぐーーーーーッ!!」
 
 がおー、と吠えるや否や虎鉄は山積みになったガラクタの中から姿見を一枚引きずり出すと、さらに椅子を一脚引っ張り出して、その前に座った。
 普段は適当に束ねているだけの髪を解き、同じくガラクタ山から拾い上げた櫛を通す。本当は先に顔を洗いに行きたいのだが、なんとなく誰かと出会ったら気まずいので今回は断念しよう。サングラスをしまい、コートのポケットから化粧用品をあれこれと取り出して使いそうなものだけを床に並べていく。最後にこれまたポケットからヘアバンドを取り出して、整えた髪が邪魔にならないように後ろへ流せば準備はオーケー。
 どうして化粧品なんて物がポケットから出てくるのか、一体どこにこれだけの量のものを仕込んでいたのか、などという問いを彼に対して投げかけるのは愚行と言わざるを得ない。 
―――彼は名は鳳凰堂・虎鉄である。
 答えなどそれで十分だ。
「さーて、やっぱり自然なカンジに仕上げましょうかねぇ~?」
 それなりに華美なメイクも嫌いじゃあないんですけどねぇ~、などと呟きながら、クリスマスのデパートでオモチャを選ぶ幼子よろしくファンデーションやらアイラインを選んでいく。鏡に映る自分の顔をためつすがめつしながらメイクを合わせていく手際は実に手馴れているように見えた。
 それも当然、虎鉄は『鳳凰堂・虎鉄』という名前と姿に誇りを持っているため滅多にしないのではあるが、変装術・擬態術を初めとする「自分を偽る」技術に長けている。元々は家庭の事情から身に付けたものではあるが、必要とあれば骨格や筋肉の位置を外側からずらして性別や体格すら偽る事が可能なのである。とは言え、ただの戯れに過ぎない今回はそこまでする気はないのだが。
「さ~て、と。それじゃあ始めるとしましょうか」

………そうして数十分後。

「これは………ちょ~とやりすぎちゃった、かな?」
 鏡の前にあったのは、困ったように笑う少女の姿であった。
 飴色の長い髪はせせらぎを奏でる小川のように背中へと流れ、目立たない程度のアイラインで普段より少し大きめに見える瞳が眼鏡の奥で微笑んでいる。タートルネックのセーターに包まれた肩は女性特有の柔らかなラインを描き、強化装甲を仕込んだ胸は本来在り得ないはずの曲線でセーターの布地を押し上げていた。
「てゆーか、間違いなくやりすぎですよね、これ」 
 どこからどう見ても十代後半の女性にしか見えない彼女は、しかし紛れも無く鳳凰堂・虎鉄その人である。
 何事もそうであるようにやってみればそれなりに楽しいもので、色々とこだわっていくうちについつい興が乗ってしまい、結局は骨格整形から肉体整形までフルコースでやってしまっていた。しかも声帯まわりまでイジっているので、声まで女性らしい優しげなものに変わっている。
 さしものセル様もビックリな超変身であった。
「ここまで本格的にイジったのは久しぶりですけど……我ながら凄いものですね」
 自分の暴走っぷりに思わず苦笑い。  
 それにしても、鏡に映っている自分が自分ではないという感覚にはそれなりに慣れていたつもりではあったが、さすがにここまで違っていると違和感を通り越して現実感が薄れてしまう。ペタペタと自分の顔に触れてみる。手の平と頬に感触があって、確かに自分の体だと判る。それなのに、鏡に映るのは自分の顔を不思議そうに撫でている自分とは似ても似つかない少女の姿だ。
………あ、これ、ちょっと面白い。
 右手を上げる。鏡の中の少女は左手を上げた。
 笑ってみる。鏡の中の少女が花咲くように微笑んだ。
 なんとなく楽しくなってきて、イエーイとポーズをとってみたタイミングで、

「すいません師匠、ちょっとお話が………」

 ガチャリとドアを開けて、クルス・リバーウエストが部屋に入ってきた。
「え…………………………?」
「…………………………へ?」
 そして、ザ・ワールド。
 つまり時が止まった。

 互いに見つめ合ったまま、凍りついたように動かない、というか動けない。あまりに予想外の事態に思考が月までスッ飛んでしまっていた。
 待て、待て待て待て待てっ! 落ち着け、素数を数えて落ち着くんだ虎鉄!! 焦ったら負けだ眠れば死ぬぞ! 落ち着いて、この状況を打破する方法を考えるんだ!
 なんて事を考えたおかげか、現実に復帰したのは虎鉄の方が先だった。
「ごめんなさい、驚かせてしまいました?」 
 いまだにパントマイム芸人よろしく硬直したままだった金髪の少年に向かって微笑みかける。
 虎鉄の打開策はこうだ。
 即ち――今、クルス君は驚きのあまり正常な判断ができない状態のはず。ならば彼が正気を取り戻す前にもっともらしい事を並べて無理やり納得させてしまえばいい――というものである。
「え………? あ、えっと………いえ、こちらこそ失礼しました………」   
 もう虎鉄自身もテンパっているとしか思えない策ではあるが、どうやら効果はあったらしい。クルスは微妙に首をかしげつつも素直に頭を下げた。
「気にしないで。えっと……貴方もこの寮の子? 虎鉄が、いつもお世話になっているんでしょうね」
 そこに畳み掛けるように、見かけだけは、あくまでも見かけだけは優雅に微笑んで虎鉄は続ける。

「はじめまして、わたくしは鳳凰堂・鉄虎(てつこ)と申します」


「あ、はい、はじめまして。僕はクルス・リバーウエストといいます」
 慌ててお辞儀を返す少年に、優しげに笑いかける虎鉄……改め鉄虎さん。
「えっと……あ、鳳凰堂、ということは……」
「ええ、鳳凰堂・虎鉄は私の弟です」
 途切れ途切れながらも必死に言葉を紡ぐクルスと微笑ましげにそれを見守る鉄虎さん。
 だが誰が知ろう。
 今この瞬間、この部屋で一番必死なのはあどけなさの残る少年などではなく、窓から差し込む赤色の中で穏やかに微笑む女性の方なのであった! ぶっちゃけ内心いっぱいいっぱいなのであった!
「あの……ほ、鳳凰堂先輩………ししょ、じゃなくて虎鉄先輩はどこに?」
「あら、ごめんなさい。 虎鉄ならついさっき出て行ってしまったところだから、まだしばらくは戻ってこないと思うわ」
「そうですか……わかりました。それじゃあ、僕はこれで失礼します」
 ぺこり、と礼儀正しく頭を下げるクルスに内心でほっ、と胸を撫で下ろす。
 そのままドアを押し開けたところで、クルスは思い出したように振り返った。
「あ、すいません。やっぱり虎鉄先輩に伝言をお願いしても、かまいませんか?」
 一瞬どきりとした分、クルスの言葉に虎鉄は安堵の溜め息をつく。
「ええ、伝言くらい構いませんよ」
 微笑む鉄虎さんに、クルスはありがとうございます、と微笑みを返す。
「それでは、“クルスがあとで話したい事がある”と言っていたとお伝えください。あと………」
 ドアがゆっくりと閉まっていく。
 その向こう、廊下に立つ少年の微笑みは。
 極上の天使のような悪魔の微笑み。 

「今度からそういうことをする時は、部屋の鍵を閉めておいたほうがいいですよ――師匠」
 
 パタン、とドアが閉まった。
 そして再びザ・ワールド。
 九秒の時点で再びザ・ワールド。 
 正真正銘最後の時間停止が終わり、そして時は動き出す。

「Nooooooooooooooooooooooッ!!!」

   
――後日談。
 部屋の鍵を新調した。
 さすがに南京錠を内側につけるのはどうかとも思ったが、元々景観など気にならないような部屋だったので良しとする。(虎鉄の日記より抜粋)
                   ギャフン  
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これはひどい(笑)

「ねえオババ様。鳳凰堂さまはどこにいっちゃったのん?」
「あの方は、ネタの星になったんよ…」

やっぱりだったのか

夏優「あぁ~……人には色々な趣味があるよな?」
鉄虎にそう言う夏優だが、なんだか少し距離を開けてる。
きっと、心理的に開いてしまった距離なのだろう。

さつき「あれぇ?虎鉄お兄ちゃんはどこ言ったのぉ?(きょろきょろと辺りを見回す)」
冬美「さつき、鳳凰堂さんは……きっと遠い世界に旅立ったのよ…」
冬美の言葉はきっと、間違いではないのかもしれない・・・?

やはり芸人は身体を張らないとね(頷く)

(ノートのフォルダを整理しつつ)
ふふふ、鳳凰堂フォルダに鉄虎を新設しないとね(微笑)

……おっと、忘れるところだった。
や、鳳凰堂クン。こちらに顔を出すのは初めてになるね。
何はともあれ、コンゴトモヨロシク(笑)

鉄虎の部屋(嘘)

兄さんの言う事が、体でなく心で理解できた…。
その体を張ったネタ師っぷり、敬意を表しやすッ!

化粧扮装のみならず、声まで変えるなんて…。
さすが虎鉄兄さんッ!
そこに痺れるけど憧れねェ…!!

!!!

こんにちは~…………(フリーズ)
えっと、お兄ちゃ…じゃなくてお姉ちゃんにそういう趣味があったとは…。
いや、どんなお姉ちゃんも素敵なのですよ!

……ところでその『対衝撃吸収剤』とやらは絶技クラブにて販売しているのですねっ!?(ぁ
……いえ、別に欲しいわけじゃないですが…(←

リクエストがあれば追加OPを次々発売する予定だ。
今後は頭部装甲も作る予定だ

うわぁぁぁやっぱり見られてた!orz

>比留間の中の人さん
ちょっ、わ、私(わたくし)は青き衣纏いて金色の野におりたったりしません!
あと王蟲って結構可愛いと思うのは私だけでしょうかっ!?

>あまの三兄妹さん
いやぁ~! なんで離れていくんですかっ! 兎は寂しいと死んじゃうんですよ?!
いえ、私は虎ですけれども!

>裏沢由那さん
あ、これはご丁寧にどうも……(お辞儀)
………って、なんですかそのノートフォルダは! 由那さんっ、ちょっとそれ渡してください!!

>白楽さん
白楽さんってマンモーニだったんですね………じゃなくて!
いいですか白楽さん! 私たちは「やる」と思ったときにはスデにッ、行動は終わっているのですよ!!

>虎織ちゃん
うぅ……虎織ちゃん、優しいのは貴女だけね………(ホロリ
こっちにおいでなさい? 撫でてあげますから……って、なんで離れていくの~!
………あと、この強化装甲が欲しいのならプレゼントするわよ?

>蓮さん
しなくていいしなくていいしなくていいですー!
そんなもの造られちゃったら……私、もう虎鉄に戻れなくなっちゃいますー!!

・・・ふ~ん、お化粧さできるんだ・・・ふ~ん・・・
暇ナ時デイイノデ、オシエテクダサイ(´・ω・`)

へー…鳳凰堂に、そんな趣味が、ね…
なんというか…頑張ってね?
誰でも人に言えない趣味の一つや二つ…
鳳凰堂は多すぎるのかもしれないけど(ボソ

それにしても、タイトル…やっぱりクルスとはそういう関係なんd(世界結界
プロフィール

神無月

Author:神無月
神無月(かんなづき)と申します。

主に株式会社トミーウォーカーのPBW『TW2:シルバーレイン』用のブログとしてなんか色々とまったりペースで徒然事が書かれています。
いぇー。

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