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ひぐらしのなく声に

 ふぉん―――ぐしゃ。

何処カラカ音ガスル。

 ふぉん―――ぐしゃ。

同ジ音ガ、何度モ何度モ、潮騒ノヤウニ寄セテハ返ス。

 ふぉん―――ぐしゃ。

繰リ返シ、繰リ返シ、波ノ音ガ止マラナヒ。

 ふぉん―――ぐしゃ。

嗚呼、此ノ音ハ………

 ふぉん―――ぐしゃ。

ひぐらしのなく声に、よく似ている。

 ふぉん――――――ぐしゃり。

「おはようございますぅ~」
 ガラガラと道場の引き戸を開けて、鳳凰堂・虎鉄は結社『絶技クラブ』に帰還した。
「おう鳳凰堂殿か、お疲れ様じゃのぅ」
 気安げに片手を上げて応えたのは板張りの床にどっかと腰を下ろした大男、天流・狗星であった。
 温和な表情で微笑む狗星に、虎鉄はおや、と首を傾げる。
「あ~れぇ? どーうしてココにいらっしゃるんですかぁ?」
 今日はこの結社の団長である狢・蓮による「部室使用禁止! 家に帰ってゆっくり休め!!」という鶴の一声によって結社としての全活動が休みになっているはずである。虎鉄がここにやってきたのはちょっとした用があったからでしかない。
「うむ、わしはまぁなんとなくじゃな……ところでどうした鳳凰堂殿? なにやら三年ほど使いっ放した雑巾のようにボロボロじゃが」
「いえ~部活もお休みでしたから、ちょっとゴーストタウンの探索に行ってきまして………ってゆーか、私よりこの道場の方がどうかしたんですかぁ~?」
 辺りを見回してみれば、床は所々粉砕され、壁に掛かっているはずの木刀などが床に散乱しており、さながら惨状の様相を呈している。
「いや、かくかくしかじか………という訳での」
「ふむ、つるつるかめかめ、という事ですねぇ……って、冗談はともかくとして、本当にな~にがあったんですかぁ?」 
「実は狢殿が比留間殿にな……」
「あ、もう十分です。それで判りました~。つまり――いつも通り、って訳ですねぇ」
「うむ、まぁそういう事じゃ」
「で、今回はなんです? 犬も食わないヤツですかぁ?」
「いや、あれは「恥ずかし乙女」の方じゃの」
 狗星と二人、どちらともなく顔を見合わせニヤリと笑う。
 結社の団長である狢・蓮と最古参の団員である比留間・イドのドタバタ騒ぎはこの結社に属する人間にとっては日常茶飯事である。例えそのドタバタ騒ぎが時に道場を損壊させる程の規模であろうと、日常の出来事に一々驚く者はいない。
「ふ~む……ってことはぁ、ここにいるのは狗星さんだけですかぁ?」
 ボリボリと頭を掻きながら虎鉄が洩らした呟きに、今度は狗星が首を傾げた。検分するように虎鉄の全身を眺め、すぅ、と元から細い目を更に細める。
「ははぁ、成る程の」
「は?」
 得心がいった、と言わんばかりに一人頷く狗星に虎鉄はギクリ、と身を竦める。
「残念じゃったのぉ鳳凰堂殿、鳳翔殿なら来とらんよ」
「あ、あははは~! なーんでそこで飛鳥さんの名前がでてくるんですかねぇ~?」
「ふむ、そうかの? それなら、そのコートの下から見え隠れしとる首飾りやらなんやらが何なのかは、訊いても構わんのじゃろうな?」
 虎鉄はしばし沈黙した後、はぁ、と深い溜め息をついた。
「………やれやれ、狗星さんには敵いませんねぇ~」
 参った、と虎鉄は両手を上げる。
 そのコートの下には、確かに狗星の言うとおり美しい装飾の首飾りやいくつもの詠唱兵器が仕舞われていた。
 大方ゴーストタウンで拾ってきた物を鳳翔殿に渡そうとでも思っとったんじゃろうな、と想像して狗星は笑みを深くした。
 お気楽を装っている割には初心なこの男のことだ。きっといざ渡そうとすれば緊張のあまりにプレゼントとも言い出せず、「探索に同行して頂いたお礼です」とかなんとか言って誤魔化すのだろう事が簡単に予想できたからだ。
 だが、それをワザワザ指摘してからかうほど天流・狗星という人格は人が悪くない。
 その代わりに、それで思い出した、という風情でポンと手を打った。
「おお、そうじゃ。そう言えば今回の騒動も狢殿がゴーストタウンから持ち帰った物が原因でな………」
 事のあらましを語る狗星に、思ったとおり虎鉄は敏感に食いついてきた。話が逸れた事に内心ホッとしているらしいことが表情から読み取れる。
「………はぁ、なーるほど。それは面白そうですねぇ。いや、その場に居合わせられなかったのが残念ですよぉ~」
「いや、存外居合わせなかった事は幸運かも知れんぞ? もし比留間殿があの姿を本気で恥じているのじゃとしたら、目撃者の記憶を奪ってしまおうとするやも知れんからなぁ」
「記憶を奪うと言いますと、まーたどうやって?」  
「それは勿論、頭部への強い衝撃によって、じゃよ」
 つまり、ブン殴って忘れさせる、という事である。
 一拍置いて、二人は声を揃えて笑った。
「成る程成る程、それはありえそうで怖いですねぇ~」
「じゃろう? ………っと、もうこんな時間か」
 見れば、窓の外の空は闇色に変わり始めている。灯りを点けていない道場の中は、もう随分と薄暗くなっていた。
 狗星は見た目からは想像も出来ない身軽な動きで腰を上げ、引き戸の方へ歩き出した。
「おやぁ~、お帰りですかぁ?」
「うむ、また明日会うまで息災での」 
 呵々々、と笑いながら手を振って狗星は道場を出て行った。
 一人残された虎鉄は周りに目をやり、まぁ散らかった荷物だけでも片付けて帰ろうかな、と壁の方へと一歩踏み出し………

――外から聞こえてきた凄まじい音に動きを止めた。

「なっ! 何事ですかぁっ!?」
 咄嗟に駆け出そうとして、再び足を止める。
 感じたのだ、虎鉄の戦士としての勘が。幾度と無く死線を潜ってきた経験が。
 今外に出れば死ぬ、と。
 誰もいない道場でたった独り立ち竦む。脳裏を過ぎるのは、最前の狗星の言葉。
『もし比留間殿があの姿を本気で恥じているのじゃとしたら……』
「嘘でしょう? ってゆーか、私関係ないじゃあないですか」
 ゴクリ、と唾を飲む。
 その音すら耳障りに感じるほどの静寂が、冷たい道場に満ちていた。
 と、その時。
『ピロリラリロリラ~』
 突然の軽快な電子音が静寂をかき乱した。
 思わずビクッ、と硬直してから、慌てて自分の携帯を取り出す。駄目だ、この静寂の中でそんな大きな音をたてては―――見つかってしまう。
 訳の判らない恐怖に焦燥を感じながらも、なんとかポケットから携帯を引き出した。
 開いた液晶に『メールを一通受信しました』、という文字が躍る。差出人は………狢・蓮。
 何故かカタカタと震える指でメールを開く。添え付けられていたファイルが自動的に再生される。ファイルはどうやら画像のようだが、液晶が小刻みに震えていてよく判らない。ああ、これは自分の手が震えているのだ、と気付く。深呼吸をして震えを抑える。唇から漏れたのは、餓えた野良犬のような息だった。ぜぇはぁ、と煩い雑音を意識から追い出し、液晶に視線を落とした。
 そこには…………   
 とてもとても素晴らしい眺めがあった。
 言葉が無い。ただ、とても嫌な予感がする。
 虎鉄が身動きの一つもとれずにいると、液晶が切り替わり本文が表示された。
 そこには、こう書かれていた。






『オマエモミチヅレダ』


「ヒ………ッ!!」
 ガッ、と携帯を投げ捨てた。
 携帯がカラカラと床の上を滑っていく。液晶画面の照明が儚げに闇を切り裂きながら遠ざかっていく。その動きが、ピタリ、と止まった。
 まるで、そう―――何かにぶつかったかのように。
「あ……」
 ゆるゆると、視線を向ける。
 液晶の照明が照らし出す、すぐ目の前に立つ、誰かの姿へ。
「あ、あああ………」
 ぼんやりと浮かび上がる。
 その姿は。
「あああああああああああああああああ…………ッ」 
 誰かの腕が上がる。
 目と目が合う。
『彼女』が、薄く笑った気がした。

「ああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

 照明が消える。
  
ふぉん――――ぐしゃ。 

 
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鳳凰堂の奇妙な冒険 ~黄金なる遺産~

「鳳凰堂先輩…そのまま携帯を置いて帰った方がいい… その携帯をとろうとしたら… 死ぬことになる」

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ミチヅレデキタ

たははー

実はイドさんの『わんわん君壱号』のデザインが間違っている事に気付いたのは掻き終わってからでしたー、というオチ。
って、あ! ちょっと待って、忘れる! 忘れますからやめ―――(ふぉんぐしゃ)

アッー!!

だが、『で か し た』!
光の速さで保存しま(ふぉんぐしゃ
プロフィール

神無月

Author:神無月
神無月(かんなづき)と申します。

主に株式会社トミーウォーカーのPBW『TW2:シルバーレイン』用のブログとしてなんか色々とまったりペースで徒然事が書かれています。
いぇー。

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